トップシークレット7





 (これはデートってやつだな)

 ライフの中を歩きながらスキップでもしたいが、子供っぽいと笑われたくないのでトリコはエスコートに専念する。
 食事も、健康志向のライフでは医食同源が当たり前で、なるべく胃腸に良いというものをトリコはチョイスした。
 案の定小松のテンションはギガギガで、珍しい食材や調理法に瞳を輝かせている。
 何よりもライフは温泉施設が充実していてトリコの心臓もギガギガであった。
「な、なぁ小松。温泉に入らねぇか?」
 一世一代の告白?に、頭に血が上らなくてくらくらしてくる。
 男同士恥ずかしい事はなにもないはずなのに、小松の身体を想像しただけで血流は下半身に集中してしまうトリコなのだ。
「そうですね〜」
 楽しげにきょろきょろと見渡す小松を見てはトリコの目尻が下がる。
「あっあのお風呂良さそうですよ」
 小松がぱたぱたと走っていく様子すら愛らしい。
 行ってみるとそこは真っ白な牛乳のような風呂だった。湯気までが真っ白で、おまけに甘い匂いがした。 

(小松の身体に白い液体……)

 うっかり妄想を駆り立てられたが、意識して追い払う。何しろこれから本物の小松と入浴なのだ。
 妄想にチャンスをふいにさせられてはたまらない。
 脱衣所でトリコは、精神統一をして血の巡りを全身に回るように意識する。
 深呼吸、深呼吸と呟かなければ、自然と呼吸は浅く短くなりがちだったがここでハァハァと興奮丸だしにしては小松に警戒されてしまうので必死である。

(落ち着けオレ。小松の裸なんて見慣れてるはずだ。それに同じ男同士だ)

 裸のつきあい上等だぜっ、とばかりに服を脱ぎ捨てる。
『うわー、何度見てもトリコさんの身体すばらしいですね〜』
『いいぜ、触ってみろよ。その代わりオレにも触らせろ』
『あんっトリコさん、どこ触って……』
 などという妄想が繰り広がっていくが、その妄想が行き着くとこまで行ってしまわないうちに意識してくい止めた。
 放っておけば妄想があられもなく展開していくのは百も承知している。
 その間に小松は先に行ってしまったらしく、脱衣所には衣服のみが残されていた。
 その衣服にさえ興奮してしまいそうになるが、そこもなんとかくい止める。

(オレはガキじゃねぇぞ、小松の下着に興味なんてあるか。その下の慎ましやかな小松自身には興味はあるが、肉柄のパンツなんて、パンツなんて……、くそぉぉぉっ)

 必死に己を律したトリコを誉めてやってもらいたい。
 後ろ髪を引かれる思いで風呂場に足を踏み入れれば、そこは一面に白い世界が広がっている。

(……って、真っ白すぎて見えないじゃねぇか)

 湯だけでなく、湯煙までもが他人を識別出来なくなるほどの白さでトリコを出迎えたのだ。
 他にも人がいるのか匂いも湯煙の甘い匂いにかき消されてしまう。
「トリコさん遅いですよー」
 小松の声にほっとして湯船に向かうが、一寸先は白い闇がくりひろがっている。
「どこだー、小松ぅ」
『あはは、捕まえてくださーい』
 そんな幻想幻聴などに、もはや用はない。何しろ目の前には裸体を晒した小松がいるのだ。
 これだけ白ければナニをしても周囲には解らないだろう。
『小松の白いのもみせてくれよ』
『やらぁぁそこはらめぇぇ』
 もはや別人の域に達している事は大目に見てもらいたい。
 小松の匂いをたどるトリコだったがいつの間にか小松の声が背後で聞こえるではないか。
「トリコさーんどこですかー。さすがに熱いですし、ボク出ますよ?」
「お・おいっ小松っっ」
 どこ行くんだ小松。まだ入ったばっかりじゃねぇかっ。そんな心の声は動揺しすぎて出てこなかった。
 二人でしっぽり背中とか流しあいっこしたかったとトリコが落ち込む。

(オレってばこんなにヘタレだったのかよ)

 いつまでも小松に片思いしていて。まるで少年のようだ。
 男同士というハードルも思った以上に高かった。
「やっぱりメルク包丁を特注してプロポーズだな」
 包丁をプレゼントして気を引かねばならない事に情けなさも感じるが小松に対する想いは日々膨らんでいくのだから恋は理屈ではないのだろう。

 こうして、トリコは小松へと続く道を歩み続けるのであった。







 脱衣所で抜いてたので遅くなりました……。って冗談ですが。
 次からようやく進展が。

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