厚生活動の一環で、IGOには毎年恒例となっている運動会なるものが存在する。
一般事務や研究者、小松のような料理人などの親睦会のようなものだ。
ちなみにお抱えの美食屋は一般人に比べ高スペックで体力が有り余るので審判などの裏方業務だ。
しかしトリコ程の実力者で、かつ会長の養子ともなれば話は別だ。いわゆる来賓席に座るべき立場であって、しかも出席しなければならないという義務もない。
それなのにトリコはIGOの広い競技場の中にいた。そこら辺では屋台が出ているので、食ってくると言えば誰も引き留めはしない。雑多な匂いの中、トリコが探すのはもちろん小松である。
この間はプレゼントしたエプロン姿に思わず鼻血を出してしまったあげく、男の事情で立ち上がれなかったのだが、今日はそんな無様な姿は見せるつもりはない。
飛び入り参加可能な競技があれば存分にアピールするつもりだ。
去年まではまったく興味もなかった運動会だが、今年は違う。きょろきょろと目当ての人物をトリコは探し続ける。
そして、大勢に混じっていてもその匂いを確実にトリコは捕らえていた。
仲良さげに話しているのは同じレストラングルメのシェフ達だ。遠目に眺めていても小松が皆に囲まれて談笑しているのが解る。
ゼブラまでとは言わないが、一般人よりは多少聴力の良いトリコがその会話に耳を傾けた。
「料理長は短距離が得意なんですってね」
聞きましたよと、今年レストラングルメのスタッフに抜擢された副料理長が小松に声を掛けている。
「えへへへ」
それほどでもないんだけどねと、小松が謙遜しているが周囲はにわかに盛り上がる。
「去年のもすごかったんですよ。リレーでもごぼう抜きで」
「いやいやいや、たまたま調子が良かったんだって」
小松はトリコのハントにもついて行けるぐらいの体力と根性がある。たぶん普通の料理人よりはマシだろうとはトリコの意見だ。
遠目から小松の様子を伺ってトリコは我が目を疑う。
(あの生足は、犯罪じゃねぇか?)
二の腕の細さはどういう事だ。筋肉はあるのだろうが細すぎる。短パンの見えそうで見えない絶対領域も犯罪級だ。
ストレッチした時に見えたわき腹とか、誘ってるのではないかと思えてくる。
「あれっ、トリコさんも来てたんですか?」
トリコに気がついた小松が手を振って駆け寄ってくる。
「あぁ、まぁオヤジがどうしてもっていうからよ」
お前を見になとは言えないトリコである。
見れば見るほど小松の格好が刺激的すぎてトリコは目のやり場に困ってしまう。
明後日の方向に視線を移すが、皆が小松の足を、そして裾から内側が見えないか狙っている気がした。
「あぁ、ボクも200の短距離で走らせてもらうんですけど」
運動不足でいけませんねぇ。立ち仕事と運動とはやっぱり別ものなんですねと、あまりにも可愛く笑うのでトリコは思わず小松を抱きしめそうになった。
「なんならオレと毎晩運動するか」
もちろん運動とは夜の大人の運動なのだが、つい言ってしまった自分にトリコはだらだらと冷や汗が流れてくる。
「やっぱりトリコさんも毎日鍛えてらっしゃるんですねぇ。やっぱり筋トレですか?」
「いや、まぁその……」
主にしたいのは腰の運動ですとは言えるものではなく、トリコは言葉を濁す。
「あっ、そろそろアップしようっと」
小松がメンバーに声を掛けて、ストレッチなどを始めるれば、ランニングの胸元が丸見えになり男のくせに妙な色香を漂わせるではないか。
ここで、男の事情による前屈姿勢になってはならぬと、トリコは理性を総動員させて自分のジャージの上着を小松の肩からかける。
「小松、上着きとけっっ」
「えーーっ走りにくいですよぉ」
それに大きすぎますと抗議する小松を隠すようにファスナーまであげた。
「るせっ、小松はオレのパートナーだろ」
超強引な理由である。
足だけでももったいないのに、乳首まで見せてたまるかとはトリコの男心だ。
ジャージを着せて満足したトリコは改めて小松を観察する。
若干の違和感。全体的に細くなったかもしれない。
特に腰というかウエストがくびれている気がした。それにケツも良い感じだ。思わずその弾力を確かめるために掴みたくなるほどで……。
だが、いくら覚悟は完了していても、その他大勢の前で小松のケツを揉むのはさすがのトリコも気が引けた。
線が細くなったのはきっと疲れているのだろうと答えを出す。
(今度ライフに連れていってやろうか)
ハントも大切だろうが、少しはゆっくりさせてやりたいとトリコは思い立つ。
そして、やはり大きいジャージを着た小松は動きづらさから転倒し、慌てて駆け寄って医務室で直々に治療したトリコは、間近で小松の生足を見て再び鼻血を出したとか出さないとか……。
出しました。
でもトリコさんは、赤いのより早く白いのを出したry
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