こんな状態で二人きりでハントだなんてあり得ない。食材をハントするより先に小松をハントしてしまいそうだとトリコは暴走しそうな自分を叱咤する。
とりあえず折れた包丁を買いにとグルメシティに誘ったが、メルクの星屑は一人で行くか時期を考えねばなるまいと、珍しくトリコは迷っていた。
待ち合わせの駅へと行くと小松の姿があった。相変わらず小さくて可愛い。困った様子からか、誰もが小松に声を掛けていてトリコは思わず歩を早めた。
「よお、待たせたか? 今日はスーツじゃなくても良かったのによ」
トリコが近づいた途端、小松に話しかけていた有象無象達が散っていく。
「いや、あはは」
トリコの言葉に小松は冷や汗をかく。トリコの言うとおりラフな格好をしたかったのだが、少しだけ胸が膨らんだのかジャケットでも着ていないと不安だったのだ。
ただ世間的にはAAAカップレベルなのでまったくの杞憂ではある。
仮に素っ裸でも誰も気付かないだろう。
「なんかデートみたいだな」
手こそ繋いではいないが、買い食いしたり、食事したりと(食べてばかりだが)まるでデートのようだとトリコは胸を高鳴らせる。
「あははは、そんなボクとトリコさんじゃ全然つり合わないですし、どこからどうみても男同士じゃないですか」
小松の言葉にトリコは、あまりにも脈がなさそうなのでガックリと肩を落とした。
ここで頬の一つでも染めてくれたなら脈ありと判断できようが、事もあろうに笑い飛ばされたのだ。
身体こそはデカいが、いかんせん恋のスキルは皆無なトリコにとってそれはかなりの痛手となった。
「ところでトリコさん、何か買い物でも?」
「んー、あー」
包丁を、と言い掛けてやめた。やはり小松には直接メルクに会って包丁を作ってもらおう。その方が自分の想いも伝わりそうだ。
だが、それ以上の事は考えていなかったトリコである。
包丁を言い訳に単に小松に会いたかっただけだ。
「……服でも買うか」
スーツ姿の小松も良いけれど、コックコートの小松も良いけれど……。
今度一緒にハントに行くときにでも身につけるような物も良い。どうせならペアなんかはどうだろうか。
どんなのが似合うのか……。
想像しようにも残念なことに、全裸で股間を隠し恥じらう小松しか浮かんでこなくてトリコはがっくりと肩を落とした。
グルメデパートと言えば、厨房関係用品が大半を占めるので結局エプロン売場へと流れ着く。
小松がコックコートに目を奪われているのを眺めつつトリコはポツリと呟く。
「裸エプロンっていいよなぁ」
思わずぷりんとした尻が脳裏に浮かぶ。腰に回したフリル付きの紐がまるでプレゼントの包装の紐に見えた。
「ほらよ、見て見ろよ。エプロンの下が恥ずかしい事になってんじゃねぇか」
真っ白いフリルで縁取られたエプロン。そして薄い布地を押し上げる股間。
「トリコさんがエッチな目で見るからですよぉ」
半泣きの小松が股間を隠そうとしたがトリコは素早くその手の自由を奪う。
「へー、見られて勃つのかよ」
うるうると涙を浮かべ上目遣いの小松が浮かぶ。
思わず前かがみになりそうになるのを、深呼吸して必死で逃すトリコだ。
妄想の中の小松ではあったが、全然いける事に気が付いた。
「よし、小松が男でも全然大丈夫だ」
覚悟完了。
次の機会は逃しはしないぜ。と決意するのだが、残念ながら小松の性別は女へと変わっていて……。
トリコがその事実を知るのはまだまだ先であり、そして一世一代の大決意は、結局無駄な決意だったと知る事となるのだが、まだまだ道程は遠く険しいのであった。
トリコさんホモ街道まっしぐら。
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