トップシークレット3




 黙って行ったグルメ界から、帰ってきたと告げた時、それはもう気まずい雰囲気だった。
 ポロポロとなく小松の愛らしさに、そろそろトリコの我慢も限界に近い。
 鼻水を垂らす姿も可愛くて食べてしまいたい。そんな思考をトリコ自身も最低だと思う。
 抱きしめれば驚きで泣きやむだろうがさすがに実行は出来なかった。
 震える細い肩。
 小松の小さい体は自分の腕の中に収まるべくして神が作ったに違いない……とまで妄想してしまいそうになってトリコは慌ててイタイ思考に蓋をした。
 ここはホテルグルメのプライベートテラスだ。一般人では決して予約が取れないレベルではあるが、センチュリースープ完成に尽力したトリコならば多少の無理は押し通せるのだ。
 そうまでしてこの静かな空間を用意したのはひとえに小松を独り占めしたかったからだ。
 作っている姿までを堪能したいとは重症だろうか。
 ゆんゆん鳴くペンギンがプールで泳いでいるだけで、二人きりなのだと思うとトリコは緊張で酒に手を伸ばさねばいられない。
 自分の身を案じて、次郎への依頼を泣きながらしてくれたという小松。その緊迫感に次郎も重い腰を上げたという。
 そんなパートナーを、欲望の目で見るとは人として最低だと思う。
 酒を呷れば、予想以上に酔いが早く回ってきた。
 フライパンと格闘している小松は手際も良い。次から次へと出てくる料理は、順番もタイミングも見事に自分に合う。
 もしかしたら身体の相性も合うのではないのだろうか。と、帰着する考えがやはりどこまでも痛かった。
 男を抱いた事はないが、同じ男としてポイントは解る。解放されたいという欲求に勝てるものはないだろう。
 以前一緒に滅菌室に入った時にも思ったがどこか柔らかそうな身体だった。そして間違いなく小松は男だった。(一応は見た)
 それでも思うのだ。あの細い腰を掴み、後ろから突き上げて貪りたい……。
 規格外なモノをぶち込まれて小松は痛みに泣くだろう。それも半端なく。
 だがそれすらも良いように思えてくるのだから不思議だ。
 小松が泣き喚く想像を、その後姿を見て繰り広げるトリコはやはり痛かった。
 そして、ココは男同士でも出来ると言っていたが、激しく同意したいとトリコは思うのだ。
 センチュリースープを完成させたあたりからだったか。小松の頬を伝う汗すらも色っぽいとか。あり得ないだろうに。
 唇もどことなく柔らかそうで……。襟足の白さとか犯罪級だ。
 コンビを組もうと思ったのは会長に言われたからではない。誰に促されなくても小松をパートナーにしたいと思っただろう。
 それは、料理の腕。小松自身。すべてを自分だけのものにしたかったからだ。
『想像以上にイカレてんなぁ』
「トリコさん、すごい涎ですよ?」
「美味そうだなーって見てたんだよ」
 お前をな。とは言わない。
 この感情は知られてはならないのだ。小松に対して性欲を覚えてしまうなんて最低だろう。
 小松はコンビを組んだ料理人なのだ。そして何よりも同性なのだ。性愛の対象にして良いはずがない。
 だからこの情欲を食欲にすり替えて、トリコは目の前の肉にかぶりついたのだった。



 後になって、「あの時押し倒しときゃよかったのか!」と叫んだトリコを、小松は最大級の軽蔑の目で見る事となるのだが、またまだ先は遠いのであった。





小松ニョタです。と、いわなければただのトリコマです。すみません。
どれだけニブ男なんだろう、うちのトリコさん・・・


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