トップシークレット2




 極力人目を避ける生活をしている、断崖絶壁の上に建つ隠れ家にトリコがやってくるのを昨日の段階から知っていたココは深いため息を吐く。
 何故なら目の前の大男が先程から自分以上の深い深いため息を吐いては部屋中を暗くしているからだ。
「どうしよう、小松を……。小松を押し倒してぇ」
 それも恋愛絡みとは、誰が想像しよう。
「いいんじゃない、人の自由だと思うよ」
 人の心とは自由なもので、占いが3%外れる原因でもある。制御も統制も出来ないのが心だ。
 だからトリコが小松に恋をしようとココには『あり得ない』事ではない。
 しかし当のトリコは違うのだろう。
「……そう簡単に言うなよ。あの小松だぜ。ぜんぜんおしとやかじゃねぇし、チビだし、愛嬌があると言えば聞こえはいいが、アレだぞ?」
 アレとはつまり平均より若干下回る容姿の事だろうが、ココにはそれを補って余りある小松のオーラを知っている。とても美しいオーラをみれば誰だって小松の良さを一目で解るだろう。付き合いの長いトリコが小松に惚れてもおかしくない。
「そうかな? 充分可愛いと思うけど」
「ココ……視力落ちたか?」
「そんなに言うほどチビってわけじゃないし、小さくて可愛いじゃないか」
 普段見ている女がリンとくれば仕方なかろうが。小松の身長は女性にすれば決して低くはないはずだ。
 なにを悩むのかとココは首を傾げたが、その答えは計らずともトリコの発言によって解決される。
「まさかこの美食四天王のトリコ様がよ、男に惚れる日が来るとはなぁ」
 そうか。トリコは小松くんを同性だと思っているのか。そう気がついてココは思わず笑ってしまいそうになった。
 相変わらずトリコは七転八倒の勢いだ。
「頭の中の小松が裸でオレを誘いやがるんだよ。と、いう訳で良い薬ねぇか?」
「バカにつける薬はないよ?」
「相変わらずヒデェな。この毒男め。いや毒舌男か」
「本当の事だからねぇ」
 トリコがバカなのは、と付け加えるのを忘れない。
 それにしても、どこをどう見たら小松くんが男に見えるのだとココは首を傾げた。
 確かにフグ鯨の時は間違いなく男性だったが、自然界においても魚など性転換するものもあるぐらいだ。センチュリースープを完成させた時には多分女性になっていただろうが、人間だって自然に性転換してもおかしくない。
 しかしそうするとどうして彼が女性になったかという事で……。
 きっと小松くんもトリコを好きなんだろうな。そう思うと小松に対し友人以上の感情を覚えたことはないが、少しおもしろくないココであった。
 だから……
「男同士でもエッチ出来るならいいじゃないか。一度押し倒して見ると良いよ」
「それって占いか?」
 目を輝かせるトリコがいっそ憎らしい。
「いや、ただの冷やかし」
「……」
 にっこりと微笑んで見せれば明らかに肩を落としていて、トリコでも恋に悩むのかと少々、いやかなりおかしかった。
「コンビ組んだのは良いけどよ、オレが小松のケツを狙ってるなんて知れたら即解消だよ」
「前途多難だな」
 いつもはバカがつくくらいに自信に溢れたこの男が哀れにも悩む姿など庭にいた時以来かとココは微笑ましく思う。
「早く玉砕しておいでよ。きっとすっきりするよ」
「あっ、テメっそれで後がま狙ってんだろ、ぺっぺっ、ココに相談したオレがバカだったよ」
 面白くねぇ、と席を立つトリコだったがおそらく目の前の食料がなくなった事も原因だろう。
「ねぇ、トリコは小松くんの身体が欲しいの? それとも心? それとも料理の腕?」
 今回もまた備蓄まで食い荒らした旧友だったが、それでもココはアドバイスする事を忘れない。
 悩んで悩んで葛藤するうちに、小松を観察するうちにきっとトリコなら真実に気づくだろう。
 どうして小松が女性になったのかを。それを受け止める度量だってあるばすだ。
「ココ……」
 しかし、恋に目が眩んだトリコは、長い間小松を異性だとは気付かずに遠回りをする事になるのだが、それは次のお話。





すみません・・・。つい書いてしまいました。
ちなみに、トリコは最後の最後まで気付かないニブ男だと思います。



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