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 覚悟は決めていた。それでも落胆してしまうのは人間の性(さが)だろうと小松は思う。
「それにしても、……どう見ても出来損ないだよ」
 料理人を選んだ時から男である方が都合が良いとも思っていた。
 低い背はもう少し欲しいところだったが、上向いて形の悪い鼻や太い眉毛を見ていると女だったら最悪だと思っていたのに。
 何故25の年にもなって女にならなきゃならないのだろうと、小松は鏡の前で正視できずに思わず視線を逸らす。
 男だというアイデンティティも確立され、好きな女の子だっていた。童貞ですらないというのに、今更この仕打ちは無い。あり得ない。
 どこかで悪いものでも食べたかというお約束には残念ながら心当たりが有りすぎるし、第一に食べ物のせいではない。
 すべては己の中の血のせいなのだ。
 父親も昔は女の子だったと小松は聞いている。可愛い女の子二人が写っていた写真。これが出会った時の二人で、父が男になって結婚したと聞いた。
 成長して初めて性が決まる、つまりそういう一族らしい。
 大抵は成人までに確立されるので小松自身も男である事で納得していた。
 だが、まさか25才にもなって変化するとはあり得ないだろう。
 これでそれなりに見れる容姿なら諦めも出来ようが、残念ながらこれなのだ。
 小松は己の血を初めて恨んでいた。


 鏡の中の自分。
 短い髪は長く伸ばしたところで似合いはしないだろう。顔がこんなのなんだから、せめて身体ぐらいスタイルが良くても罰は当たらないだろうに。お約束のようなまるで子供のような体型。
「泣きそうだ」
 鏡の前で、映る姿に小松は肩を落とす。
 原因はわかっていた。
『ボクがトリコさんを好きになったからだ』
 どうせ報われない恋なのだから、わざわざ身体まで変化する事もないだろうに。
 本物の恋をしたら相手に合わせて性転換するのは、効率良く結ばれてより良い遺伝子を残そうとする一族の本能のようなものだ。
 だからってこれは有り得ない…。ボクなら願い下げだと小松はさらに深く溜め息を吐く。
 しかし。
 もしかしたら元に戻るかもしれないのだから、今まで通りに生活するべきだろう。
 第一にこれで女の子らしい服装とか考えられない。小松は自分の女装姿を想像して、脳震盪を起こしそうになった。
「ダメだ、気持ち悪すぎだ」
 言葉遣いだって今更変えられるものではないし男として生きるべきだと答えは簡単に出た。

 ただトリコに対する気持ちだけは簡単に消えそうにもなく小松を苦しめる。

「クヨクヨしちゃ駄目だ!」
 迷いは味に出る。恋が実らないぐらい今までにもよくあった。そのうちに甘酸っぱい思い出になるのだから覚悟を決めるべきだ。
 鏡の前で小松はいつものように髪をセットする。そうすれば、いつもの自分となんら変わるところはなかった。
「胸、は……」
 喜ばしいのかまったくのまな板状態で服すら今まで通り…。コックコートを着れば一ミリと変わらないだろう。
「トリコさん、気付くかな」
 ほんの少しの淡い期待が胸を擽る。
 いや、駄目だ!
 もしバレたらコンビを解消されるかもしれない。
 今までの友情が簡単に壊れるとは思わないが、『貴方が好きだから女になっちゃいました、あはっ』とか、間違っても言えやしない。ドン引き確定なチャレンジ精神を小松は持ち合わせていなかった。
 絶対に秘密にすべきだと、小松は顔を上げる。


 ほんの少し、顔のラインが柔らかくなった事に小松は気付かないでいた……。






続き…ません。貧乳なのが書きたかっただけです。
小松は自分を卑下してますが、トリコ達はきっと小松をカワイイって思ってるんですよ。
「男のクセして、あの可愛さはなんだ? 」とかトリコが悩むらしいです。





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