震えるリクオの頬にそっと触れればもう後戻りなど出来なかった。
「牛鬼! 次はオレだ」
御簾の外にいるであろう牛鬼に告げれば、笑い声とともその低い声が返ってくる。
「一向に構わんよ。しかしそれで良いのか?」
もう誰も止める者がいなくなるぞと脅すかのような台詞。
「それをアンタが言うのかよ」
唆した張本人が何を今更きれいごとを並べるのか。これで思惑通りとほくそ笑む牛鬼の姿が浮かぶ。
「リクオ、次はオレだ」
「そんな、ヤダよっ」
まるで死刑宣告を受けたかのような怯えた表情。なのに身体の奥からの火照りがリクオを艶めかしく彩っている。
「心配するな。悪いようにはしねぇよ」
ひどい事はしないと確約できる。しかし今まで我慢したのだ。その劣情を鑑みれば、少しは鳴いて貰わねばなるまいか。牛鬼や猩影以上にリクオを欲しているのだ、多少は執拗なものとなろう。
しかし言葉とは裏腹に嗜虐心を刺激される姿に我慢も限界だった。
「鴆くんも? 悪い事しない?」
上目遣いで縋るような眼差し。その言葉に鴆の動きが止まる。
「も?」
こくんと頷くリクオ。
「誰も、何もしないんだよ。鴆くんも何もしないんだよね?」
意味が分からなかった。何もしないとはどういう事だ?
あれだけの声と姿があったではないかとの鴆の疑問に
「それはこれだよ」
と、リクオの懐から白い粉と白い紙が取り出される。
「鴆くんがこれを」
手渡された物を互いに一枚ずつ香にくべれば、忽ち白い煙が立ち上る。
「これは、」
白くぼんやりとした形となり、小さくはあったが幻聴が聞こえはじめていた。
目の前で白い煙が形を作り、そして聞こえる声は明らかに自分とリクオの声であった。上擦った声は吐息混じりのそれ。
陰陽師が使う式神と同じ原理なのだろうか、ただの紙が命を得て動き出す。
では、いままでのあれはすべて自分の願望を反映したものだったのか。どんな春画も顔負けの痴態が目の前で繰り広げられ始める。
恥ずかしがって膝を抱き顔を伏せるリクオ。
「これは……」
「なんだよ、リクオもコレが欲しかったんだろ」
「ダメ、鴆くん。そんなに見ないで」
「だってよ、リクオのここ。こんなにぬるぬるになってよ」
「ゃぁ、……ん」
くちゅりと粘液質な音が卑猥さを増す。
「ぅ、くぅ。…っあ、やぁ」
「上も下も可愛い声で鳴きやがって、好き者だなリクオは」
「違、鴆く、ん」
なんという恥ずかしい場面だろうか。正視に耐えないとはこのことだろう。
リクオにしたいと思っていることを目の前で繰り広げられている。
「こりゃあすげぇ」
「鴆くんのバカッ」
思わず感嘆の声を上げてしまいリクオから咎められてしまう。
そのリクオと言えば目を閉じて耳を塞いでいるが、こんなに間近で居れば嫌でも聞こえているだろう。
「……いつまで誤魔化せるかな」
あとニ枚の紙を大切そうに見るリクオ。
誰がそれをリクオに与えたのか。
心当たりはあるが、ではその目的は?
そんな思考も香のせいか段々と纏まらなくなっていく。
心細げなリクオの肩を抱き寄せて、禁忌と自制するよりも前に思わずその唇を奪ってしまっていた。
一発殴られるかもしれないと恐る恐る唇を重ね続けていたがリクオの抵抗はない。
それどころか不安を紛らわせたいのか、すがりつく仕草を見せられ鴆から抑止力を奪っていく。もう限界だった。
その場に押し倒し、性急なまでの仕草でリクオの帯を解くと有無を言わせぬうちに身体を重ねる。
初々しい身体は誰の痕もなく、鴆を慎ましく受け入れたのであった。
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