だがしかし鴆を拒むかのようにリクオは意外と強い眼差しを向けたのだ。
「牛鬼と猩影くんはひどい事しなかったよ。だけど次は誰なの? ボクをどうするの?」
ひどい事はしなかったというリクオの言葉に鴆は少なくとも衝撃を受けていた。
あれだけの痴態を繰り広げていたというのに、リクオは二人の行為を受け入れている。
あれだけ鳴かされて、男としての矜持を損なう事はなかったというのか。
なんという順応性だろう。
もしくはリクオの本質が淫らなのかもしれない。その証拠にリクオは楽しんでいたではないか。濡れた喘声が耳から離れない。
「牛鬼と猩影は随分良かったようじゃねぇか」
可愛い声でよがってたもんな、と揶揄すればリクオの目元がうっすらと赤くなる。
「えっ、だって牛鬼と猩影くんは、あっ…」
しまったというように口を塞ぐ。
リクオは何を言いたかったのか。
まさか、牛鬼と猩影の性戯が巧みだったとでも言いたいのだろうか。その可愛い口で彼らを褒めそやすつもりなのだろうか。
いやきっとそうに違いない。
「そうかい。あれだけイイ声で鳴いてたもんな。気持ちよくしてもらって酷くは言えねぇな」
途端にリクオの顔が真っ赤に染まる。
「鴆くんにも聞こえてたんだ……」
「あれだけデカい喘声で鳴いてりゃな、てっきり聞かせてくれてんのかと思ってたぜ」
「……そんな、」
恥ずかしそうに起きあがったリクオが着物の前を隠す。しかし乱れた裾から覗く脚の白さはまさに目の毒であった。
「ねぇ、鴆くんはボクの事どう思っているの?」
上目遣いで鴆を見るリクオ。
「なっ、」
まさかリクオから指名されるのか?
リクオがどうしてもと言うならば言を曲げて相手しない事もないが……。
俯いたリクオの短い髪がその表情を隠している。
「ボクがこんな目に合わされるのは自業自得だと思う?」
悲しそうに言葉を選ぶリクオに冷水を掛けられた気分になった。
「ボクが頼りないから、皆がボクを消そうとしているんだよね」
それは疑問というよりも確認のための言葉だった。
「……知ってたのか」
「それぐらい解るよ」
力無く微笑むリクオ。
「鴆くんもボクなんかいなくなる方が良いと思うでしょ」
「違う!! オレはお前自身が必要だと思ってる」
だからオレはお前を陵辱する事はしない。そう断言すればリクオの表情は今にも泣きそうに歪む。
「でも、鴆くんは止めてはくれなかったんだね……」
リクオが責めてくれればどんなにか良かっただろう。俯いたリクオの細い肩、着物の裾から見える細い足首。
こんなにも頼りなげなリクオを三代目と祭り上げようとしただけでなく、不要だからと消そうとする幹部達とそれを止められない自分とどちらに否があるだろうか。
消極的な肯定をした自分は悪くないとはとても言えなかった。回避すべき処置をし尽くした結果ではないと、卑怯な自分の所行を鴆は恥ずかしく思う。
「リクオ、……」
すまなかったと、謝罪だけでは傷つけたリクオの心が癒えるはずもないが鴆が頭を下げると同時だった。
「ん、ぁ……はぅ…」
リクオの呼吸が徐々に乱れてきていて、頬はより紅潮しているではないか。
「どうしたリクオ」
きつく目を瞑って耐える様子からも解る。これは香の影響だろう。
人間の方がより利くように出来ているのだ。
まだ年若いリクオといえど雄として本能が刺激されないはずもない。
「出ていってよ、こんなの……つらい、から」
身体を縮こまらせて耐えるリクオ。
その辛さを解放してやるのがオレで悪いはずがないと鴆の心が決まる。
リクオを助けるためだと、決して苦しめるものではないと己の中で言い訳をしている自覚があった。
そしてとうとう鴆は想い人であるリクオに手を伸ばしたのだった。
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