砂漠の風5




 程無くしてアキラが戻ってきた。
「もうすぐ部屋の用意が整うみたいだよ」
 優しげなほほ笑みで、アキラはヒカルに手を差し伸べた。その手を取って付いてくるようにという事だろう。
『良かったですね、ヒカル。部屋まで用意してくれるなんて』
『ほんとラッキーだよな』
 二人でしてやったりとほくそ笑みつつ、アキラの手を取って付いていく。
 奥まった場所にあるそこは、一際豪奢な飾り付けがなされていて、ヒカルは驚きに目をパチパチと瞬かせた。
「入って。僕の部屋だよ」
 アキラはヒカルの手を掴んだまま、半ば強引に部屋の中へと引っ張り込む。ベッドには真新しい布がかけられていた。
 淡い色合いに統一されたのは、どうやらヒカルのためらしい。まさか用意とはそういう事なのか?
「同じ部屋?」
 恐る恐るヒカルが尋ねると、
「だって、君は花嫁だから。一応皆にはそう説明したんだ」
 と、あっさり返答されたうえに、
「安心して、花嫁というのは建て前だし。それに寝相は良いほうだから」
 とまで断言されてしまう。
「ベッドも一緒?」
 さすがに声が震えていたのか、アキラは堪えきれないというように笑みを零した。
「花嫁と一緒に寝ない男はいないよ。大丈夫手は出さないから」
 初めからその約束だったし、当たり前だと言い掛けたヒカルの前で、なんとアキラは衣服を脱いでいく。
「そっそれに、なんで脱ぐんだよ」
 言っていることとやる事は全然逆じゃないかと流石にヒカルも涙ぐむ。こいつも緒方と同じなんだと思うと、ヒカルは心底悲しくなった。
 逃げるしかないと決意したヒカルの前ですでにアキラは全裸になっていて、ヒカルは慌てて顔を伏せる。
「寝る時はこの格好の方が熟睡できるんだ、他意はないよ」
 大丈夫だから。
 そう付け足したアキラの手に再び引っ張られて、ヒカルはベッドの中に並んで寝転んでいた。
 それ以上、何もしないと言ったのは事実なのか、アキラはヒカルを見つめると綺麗すぎる笑みを浮かべる。
「なっ、なんだよ人の顔見て」
 熱いとも言える眼差しに、ヒカルは恥ずかしくなってくる。この気持ちは一体何故だろう。
「手が出せないから、せめて顔だけでもね。それにしても君って本当色白だよね。小さな胸とかピンク色の……とか目に焼き付いて離れないよ」
 まさかそんな言葉がこんな美しい顔から紡がれるなんて、ヒカルには俄に信じられなかった。けれどもその眼差しは男のもので……。
「もしかして、人の裸想像してんのか?」
 まさかと思いつつ尋ねたヒカルは次の一言でショックを受けた。
「手は出してないだろう?」
 やっぱり想像してたんだと思うと恥ずかしくなってくる。確かに自分も今さっきアキラの全裸を見たのだけれども、まぁ見慣れてるものだ。それに比べ女の身体を見られた方がよほど恥ずかしい。
「塔矢のエッチ。目付きがやらしい」
『ヒカル、ヒカル、危険です!! このアキラという者、あわよくばヒカルをモノにしようと!!』
 佐為の騒ぎ立てる声が響く中、アキラがとどめの一言。
「だって君は全裸で横たわってるんだもん」
「全裸を想像するなっバカ!!」
 流石に怒りで拳が震える。そんなヒカルの拳をアキラは優しく包み込むとそっと口付けた。
「早く、君の白い身体に触れたいよ。全身に優しくキスしたいんだ。胸の膨らみも君の秘密の場所にもね」
 出ていこう!!
 と、思ったけれど、今日はそんな体力も残っていないし、どうやら無理強いする様子も見受けられないしで、ヒカルは思い止まる。
「さっさと寝ろ、エロ塔矢!」
 なんとしても一ヵ月を耐えきって、馬とか食料とかお金とかをせしめた上で出ていこう。
 たとえ、本当の女だったとしても、俺は絶対にこんな男には惚れたりしないぞ!!と、ヒカルの決意はますます固くなったのだった。





おまけをUPしましたv





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