どんなに背伸びをしたところで決して敵う相手ではない。人間の自分が彼に勝てるはずもないのだ。
夜の姿はまさに奴良組の若頭。次期頭領として相応しい立ち居振る舞いと力を持つ。
一方の自分はどうだろうか。一日のほとんどを支配する人間の血は下僕達を束ねるどころか、意中の人の気持ちも射止められない。正確には意中の妖ではあるが。
どちらも自分なのに、別の世界の自分であるがゆえに侭ならぬもの。あの枝垂れ桜の古木からこちらを嘲笑するかのように見下ろす。
『勝てない…』
妖怪の世界は彼の物なのだ。
だから想い人とて彼の物。
初めて好きになったのはボクなのに……。
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