伝えたい言葉




 ヨーマの出現も一年で六体がいいところだ。
 六年前の事件があってから一挙に増えたがそれでも二ヶ月に一度。
 おまけに守護家が、志村・細美・叛阿弥・倉持とあればヨーマに当たるのは年一度あるかないかだ。
 現代になってやや均衡が崩れているとはいえ、緊張感が薄らいでいるのもまた事実。
 だからこそ、恋愛なんぞに心が奪われるのかと自嘲しつつ一燈は状況に甘んじている。

「ツーリングいかねぇ?」
 今日は愛しい恋人の心を奪うアニメはない。深夜枠もチェック済み。
 守護家としての使命があるからK都から離れられないとしても、夜の街をほんの少し郊外に走らせても罰は当たるまい。
 初めてバイクの免許を取った時は自分の後にスタイルの良い女を乗せると思っていたが、腰に回されるのは細く長い、男にしては筋肉のない腕。
「時生、しっかり捕まってるか?」
「一燈さんの運転が荒いですからね」
 時生の言葉に、
「やっぱ、背中に当たるものが足りないな」
 心の中だけの言葉にしておけば良いのに、つい本音が漏れる。時生の腕が少し強張ってその感情を現していた。
 だが、素直でない彼が嫉妬に大声を出すはずもなく、無言の抗議に一燈もマズイと思ったがすでに後の祭り。
「……」
 時生は赤信号でバイクの時間を止めて歩きだす。
 大事なバイクを放置するかいなか3秒悩んで一燈は想い人を追い掛けた。

 豊満な胸なんていらない、お前がいいんだ。
 どうしたらこの想いを全て伝えられるだろう?

「それ以上逃げたら説教8時間だぞ!」
 その言葉に立ち止まった時生を背後から抱きしめる。
 やっと捕まえた恋人に一燈は人目を憚らずにキスをした。 


 伝えたい言葉はたくさんありすぎて。








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