伝えたい言葉  2




 単なる触れ合うキスに物足りなさを覚え、舌を絡め自分より一回り小さな身体に触れていく。
 腰を引き寄せ、女とは違い丸みなどない臀部を意図をもってわしづかむと身体の奥から衝動が沸き起こる。
(もう我慢出来ねぇ)
 汗ばむ首筋にキスをして、シャツをたくしあげる段になって時生が胸を叩いてきて抗議の意を示した。途端に周囲の喧騒が耳に入る。
(ヤバイ!天下の往来でナニしてんだ?)
 逃げた時生を追い掛けてキスしたはいいが、時生の愛らしい反応に夢中になっていた。単なるキスが深くなりもう少しで通報されるまでの事をしそうだったのだ。
 顔を赤らめ、何か抗議しているが、そんな様子にすら突き動かされる。
 時生の手をとり、バイクへと戻る。ヘルメットを被るのももどかしく、エンジンをかけて走り出していた。
 ここから一番近くて人目につかないところはどこだった? 
 記憶を辿り、スピードを上げる。
 最近は受付も無人のところが多いので男同士でも変な目で見られる事もあるまい。
 適当に部屋を選ぶとカードキーが出てきて、状況についてこられていない時生が目を見開いている。
 出来得る限りの迅速さで部屋へと入り、やっと二人きりになって、さぁこれで思う存分続きをしてやると時生を見ると、何故か冷めた視線で見られていた。
「一燈さんってハデ好きですねー」
 嫌味くさい言葉のオプション付きで時生が移した視線の先には、下品なぐらいに煌びやかな大きなベッド。天井には鏡と赤やピンクに変わる照明。
 ハデか?
「バーカ、こんなのどことも一緒だっつーの」
 冷蔵庫にはビール。引き抜くと自動計算で課金されるらしい。
 プシュッと音を立てて缶を開け、一気に飲み干しつつ、ソファーに腰掛ける。
 机には食事メニューと一緒に例のおもちゃのメニュー。メンバーへの加入案内に割引券、一通り目を通す様子を時生は眉をしかめて見ていたらしい。
「どこも一緒ですか。さぞお詳しいんでしょうね」
(ヤベェ墓穴だった!)
 過去をなかった事には出来ないが、秘密にしておくのが礼儀というもの。これじゃあ誘導尋問だ。
 ダラダラと冷や汗が出る。ごまかすようにテレビを付けるがそこには胸の大きなアイドル風なモデルがなまめかしいポーズで脱ぎ始めている。
「胸。一燈さん好きそうですね」
(しまったッ!どんどん深みにハマッていく)
「胸なくってすみませんでした」
 ツンと顎を上げて、気にしていないそぶりを見せている。
「あのなー。時生に胸があったら…」
 恐いと言いかけて止めた。
「それはそれで良いかもな」
 小さい胸を恥じらう時生が浮かぶ。押し倒せばなくなってしまうような微乳。
 今の少年のような身体も好きだが、むしろ時生ならなんでもOKかもしれないと、妄想していると。
「やっぱり帰ります」
 そう言って時生はクルリと背を向けた。
 これはマジでヤバすぎた! 流石に機嫌を損ねたと、墓穴掘りまくりじゃねーかと猛省しつつ一燈は気が付く。
 これは墓穴というより……。
「あーそうか嫉妬ってヤツか」
「違いますっ」
 クルリと振り返った時生。図星だからか焦る時生の可愛い事と言ったらどうだ?
 こんな可愛いヤキモチに思わず笑いが漏れる。
「俺はよ、オマエだから良いんだよ」
 時生という一人の人間に惚れたのだ。
 抱き合ったりキスしたり一つになったり。時生だからこそしたい。
「僕も一燈さんがいいです」
 醜い嫉妬をしてしまう程好きです。
 そう打ち明けた時生の頬は赤い。
「時生が嫉妬だなんて大歓迎だな」


 俺がオマエに夢中だって朝までその身体に教えてやるよ。
 二度とこの気持ちを疑う事のないように。


 伝えたい言葉はきっと届く。








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