君ヲ慕ウ 6
あれから2週間が過ぎていた。光樹の行動も言動も嫉妬だと理解するのに充分な時間だった。 また時生自身も恋をしているのだと気付くのに充分過ぎる時間であった。 (嫌だな…、恋だなんて) いつからだなんて事も考えるだけ無駄で。 責任感が強く世話好きな彼に、世間知らずな自分が恋をするのは必然だったのか。 それでも素直になれなくて。心配して欲しくて。 引きこもっていれば何かと世話を焼いてくれるので甘えていたと時生は振り返る。 勢いのまま一燈に関係を迫って、同情なのか好奇心からか、身体の関係にはなった。それも一燈が元からバイセクシャルであったからだろう。 時生が何もなかったように振る舞うように一燈の態度も何一つ変わらなかった。 結界を探すために送り込まれるヨーマ。占星術でその気配がある度にK都内を警戒する。 守護家が会するのはそんな時だ。 二人きりになれば、何かあるのではないかとつい期待してしまい、即座に自ら否定する。 黙る時生に一燈が話し掛ける。 「少しは外に出れば?」 「嫌です」 アニメばかり見る時生を咎める一燈に時生も即答する。 「バスは道が込むし、……電車は痴漢にあいます、から」 先日、満員電車で触られた事を思い出す。 犯行に出る人間も同じ性癖の人間が解るらしい。痴漢ぐらいで落ち込むような柔な精神はないが、自分が男に抱かれ喜ぶ人間だと一燈にだけは知られたくなかった。 そもそも一燈に抱かれなければ気付く事もなかっただろうが、一燈の望むように軽い関係を築けない自分は重い存在になるだろう。女々しい態度も望まないはずだ。 いつも手元に置いて離さない光樹ですら一燈を独占したくて不安になっている。 (そうでなければ牽制になんかこない) 嫉妬の上での行動。 同じ狂気が時生にもあると今なら解る。 「痴漢? 痴女じゃねーの?」 一燈の言葉に、あれは男の手だったと嫌悪と共に思い出す。 「そうかもしれません」 それがきっかけで一燈への気持ちを自覚した時生は、誤魔化して話題を変える。 「一燈さんのバイクに乗せてくれるなら外出するのも良いかもしれませんね」 そうなればまるでデートのようだ。まだ乗せてもらった事はないが風を切って走るのは気持ちが良いに違いない。 だがそんな時生の気持ちを知らず、一燈は否定の言葉をつむぐ。 「時生は免許持ってねーだろうがよ。それに俺のバイクは時生には大きすぎだ」 おそらく一燈は時生がバイクを貸してほしいと言ったと誤解したのだろう。 「……」 一燈の中には二人でと言う発想がないと思うと時生は悲しかった。 「どうしたよ?」 「なんでもないです!」 察しの良い一燈は時生の表情の変化に敏感で、女々しい感情を知られたかと思うと時生は恥ずかしくなった。 どうフォローしようかと思案していると一燈の手が伸びてきて時生の髪をくしゃりと撫でる。 「わかったよ、俺の後になら乗せてやるから機嫌治せ」 ヘルメットが無いからまた今度と約束した一燈に時生の表情が明るくなる。 「ホントですか?」 こんな些細な優しさで喜ぶなんて我ながら愚かだと思うが、時生は口は悪いが一燈は意外と優しいのだと再確認していた。 (優しいのはセフレの一人だから?) きっと彼にも優しいのだろう。8年前にヨーマから助けた彼。可愛らしくて、一途で忠実で。大切にしているのは傍目から見ても解る。 (僕は『志村』だからだ。個人として見てもらっている訳じゃない) 『僕を見てください!』 そんな、言えない言葉が降り積もる。 忘れよう。 いつだってそう思っているのに……。 かろうじて平静を装ってはいるが、キスしたい、抱き締められたいと思ってしまう。 言えばきっと迷惑だろうに。 (なのに貴方が不意打ちにキスするから僕は……) 黙ったまま一燈のキスを享受しつつ、切ない恋に時生は涙を流すのだった。 少しずつおかしいところが出てきていますが脳内で変換しておいてくださいorz なんとか最後までプロットが終わったんでほっと一安心。でもまだまだ続きます、すみません。 |