君ヲ慕ウ 3




「風邪でもなさそうですが。徳田に消化の良いものを作らせましょう」
 ハクタクの言葉に背を向ける。
「寝ていれば治る」
 言葉少なげに答えたのは、口を開くのも億劫だったからだ。
 昨夜、甘い吐息を紡いだ喉は少し嗄れている。ハクタクに知られればまた何かと世話を焼かれるだろう。
「しかし昨日一燈様がお帰りになってから時生様の御加減が優れないようで」
「じゃあ風邪でも置いて帰ったんだ
 本当は明け方に帰宅したのを知っているのか知らないのか、なおも食い下がろうとするハクタクに眠るからと告げて一人にするように命令し、大人しく寝ていると約束して枕に頭を預ける。
 熱があるのは解る。
 だが昨日の事が不調の原因なのか精神的なものなのかははっきりとしない。
 心が沈むのは期待していた結果が得られなかったからで、それでも時間がすべてを忘れさせてくれるだろう。時間が解決するという事を時生は嫌というほどに知っている。
 そして。恋を失ったのだと今更ながらに気付き、バカな事をしたと後悔していた。
 こんな事をしでかさなければ、いつか風化するまで憧れだと片付けられただろう。行動に出た事で自分の感情が露呈し、彼の気持ちも判明したのだ。


 今度会った時は何もなかったように振る舞おう。
 それが同情で一夜を過ごしてくれた彼への償いだから。


 だが時生の意図とは別に歯車は加速しつつ動きだしていたのである。







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