君ヲ慕ウ 2




 忘れたければ夢中になれるアニメを見ればいい。いつだってそうする事で現実から逃れてきた。
 人の温もりだってほしいわけじゃない。
(一燈さんだから……。)
 ずっと秘めていた想い。
 彼とキスする一燈を時生は見てしまったのだ。
 恋人なんだな。そう割り切るより自分の中の醜い部分がどうしようもなく一燈を求めてしまっていた。
 彼を手に入れたいと。
 それがどんなに卑怯だと解っていても。


 腕の中に抱かれ身体中が痺れたような感覚が襲う。性的な興奮だと浅い経験でも解る。
 どうして彼なのだろうか。
(考えるだけ無駄か……)
 諦めたように一燈から与えられる快楽に時生は溺れていく。
 深い海の底へ堕ちていくような罪悪感と陶酔。
 深々と貫かれながら、案外出来るものだと納得しつつ、次の瞬間には悦楽により何も考えられなくなる。
 身体中が熱さで溶けていく。絶頂へと追い立てられ何度となく果てても、飢えた心と身体は満ちる事を知らなかった。
 どうやって終わって彼を見送ったか記憶はあやふやだったが泣いたり引き止めたりはせず不様ではなかったはずだ。
 恋人の元に帰る一燈はどことなく急いでいたように思う。
 甘い言葉も約束も期待していた訳ではない。
 一燈にとって据え膳をただつまみ食いしただけだ。
 たった一度きりの事として、明日からは今までと同じ顔を見せるだろう。
 決して彼の特別にはなれないのだ。


 どうして奪えるだなんて勘違いをしたのだろう。自分の方が優れていると思っていたならなんて傲慢だろう。
 時生の頬を透明の涙が落ちる。それは取り返しのつかない事をしてしまったという悔恨の涙だった。








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