片思いの悲劇




「時生。まったく……。お前はホントやる気のない奴だよな」
 もう少し温もりを分かち合いたかった彼はやや不満げだ。
「はぁ、すみません」
 隣で煙草をふかす彼に一言詫びて、まだ気だるい身体を起こす。
 寝食を忘れての行為はいつもの事ながら彼の独壇場だった。

 煙草をふかしながら、真剣味のない僕を咎める彼。
 どんなに責められても僕は真剣になんてならないから。
 だって彼は兄の恋人だったから。
 いや今でも彼の心は兄のものに違いなくて。
 彼の言葉も視線も、僕であって僕にではない。所詮彼にとって僕は身代わりにしかならない。

「テレビばっかみやがって。人と目は合わせねーし」
 彼の言葉にチクリと胸が痛む。
 貴方をまともに見たらいつか心奪われるって僕は知っている。
 その情熱に焼かれる。焼くのは嫉妬だけでいい。
 身も心も焼き尽くされる前に逃げなければ。深入りしちゃいけないと理性の警鐘が響く。

「先にシャワー浴びてきます」
 21代目志村の当主になって、公の場にしか出なくなって。
 なんの変化もない世界を彼が焼く。少しずつ変わる。心が動く。
 瞳を見られたくなくてかけた伊達眼鏡。似合わないという彼の言葉で止めた。そんな些細な事でも彼の言葉に左右され、それらは数えればキリがない。

 だけど彼は僕を見ていない。本当に見ているのは兄さんなんだ。
 僕なんて見なくて良い。身代わりなんてなりたくないから。

 家族だけでなく彼の心を奪った兄さんが憎いよ。
 貴方さえいなければ……。

(それでも彼が僕のものになるとは限らないけれども)

 なのに僕は彼を求めている。
 それは、なんて悲劇。






時生は一燈さんに惚れてるんだけれど、兄との事を誤解して素直になれないのです。もちろん兄と一燈さんの間はシロなんですが。(独自妄想中)



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