君と僕の温度差 7




「ナッツ、どうして……?」
 慌てて身繕いをしようとしても後の祭りで、何をしていたかなんて情況は雄弁に物語っていた。
「人の留守に上がり込んで。教師がそんな事をしていて良いものですかね? 不法侵入で警察呼びましょうか?」
 まるで出来の悪い昼ドラのような展開。ナッツは冷ややかだったが、『間男』には十二分の効果があったらしい。
 声が震える。
「ナッツ、お前には関係無い。放っておいてくれ」
 正面からナッツを見る事が出来ず、足元にだけ視線を向ける。
 本当はナッツが関係無いという事はない。むしろ大有りだったが、どうして言えようか。
 心の中で叫ぶ。これはナッツのためなんだ。だから黙っていてくれ、と。
 こんな事までしてパルミエを復興させようとする自分の手段をとやかく言われたくなかったが、ナッツはそれを許さなかった。
「たった二人っきりの『身内』にそんな口を聞いていいのか」
「ナッツ、……」
(本気だ。本気で怒っている……)
 そのただならぬ雰囲気に逃げ出さない奴はいないだろう。そそくさと身仕度をして、無言で威嚇するナッツの横を擦り抜けて同僚は出ていった。
 残された僕はナッツの怒りを一身に受ける。
 一歩ずつ近付いてくるナッツ。
「あいつには脚を開くのに、オレには手で我慢しろだなんて理不尽だな」
 一瞬にして鈍器で頭を殴られたような錯覚に陥る。
「ナッツ、お前最近おかしいよ、どうしてそんな事に執着するんだ!」
 まさかナッツが怒っているのは、自分の浅はかな手段ではなくて、単なる性行為の事なのか? そんな目先だけの事なのか?
 もしそうなのだとしたら……。
 教えたのは自分で……。ナッツに人間の身体を教えた罪を償わなければならない。
 何故ならナッツは何も悪くないのだ。執着するのは雄としての本能。より強い快楽を求めるのも人間の身体だからだ。
 だがそれだけでは説明できないほどのナッツの怒りが空気までをも震わせる。
 どうしてそんなに怒るんだ?
 まるで裏切り者を見るような冷ややかで射るような視線。
 途端にナッツに伸し掛かられ、先程からの行為で乱れるベッドに再度押し倒されていた。
「やっ、止めっ」
 ナッツの意図を察知して、慌てて逃げようとするが既に酔いが回ってきた体は思うように動かない。
 サイドテーブルに放置されたままの瓶に気が付いたナッツが残りを飲み干す。
「こんなものを飲んでまで何をするつもりだったんだ?」
 解っているだろうに、ナッツは残酷な言葉で責めてくる。
「まぁちょうど良いか」
 独り言のように口にしたナッツに、どこにそんな力を秘めているのか、掛け違いをしていたシャツのボタンが飛ぶほどの勢いで服をはぎ取られる。
「そうだな、ココがおとなしくしていればプリキュア達への態度も改める。もっと愛想よく下手に出てやろうじゃないか」
「ナッツ……」
 身体をくるりと裏返され、首を押さえ付けられる。
 カチャカチャとベルトを外す音がしたかと思うと、同じように背後から自分のベルトも外され全てを膝まで下げられていた。
 そして腰の下に枕を入れられ、あられもなく臀部を突き出す形になったかと思うと準備も無しにナッツ自身を受け入れさせられていた。
 悲鳴を押さえ切れず、まだ明るい部屋が悲鳴で満ちる。
 必死に力を抜こうとするが、挿れられたモノが容赦なく動かされ、その痛みに身体は制御する術を磨耗させていく。
 いつしか意識は混濁とし、揺すぶられる身体と意識の境界が崩れ始めていた。

(ナッツ、いったいどうしたんだ)

(こんなのお前らしくない)

「これからは時と場所を選ぶんだな。淫乱教師の小々田先生」
 遠くなる意識の中、吐き捨てられたナッツの言葉が胸に刺さる。
 僕だってなにも好きで身体を許そうだなんて思っていない。
 ただそうする事で、パルミエを復興させる足固めになると思っただけだ。

(どうしてこんな事になるのだろう)

 ナッツ、僕はナッツのために……。







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