君と僕の温度差 4




(バカだ……)
 どうして、あんな事をする必要があった? いくら自分の方が人間体に慣れているとはいえ、教えなければならない事ではなかったはずだ。
 その手のDVDでも見せてやれば自然のままに任せていてもいつかは覚えただろう。
 それでなくとも、先日は男同士なのに身体を繋いだではないか。あれこそ欲求のままに流された証拠だ。どうすれば良いかはきっと解る。
 なのに僕は……。
 何も知らないナッツに余計なことを教えたのだ。
 いくらプリキュア達に対する態度が悪かろうとも、ナッツにはそれを補う容姿がある。多少無愛想でも反対に魅力的らしい。
 それにパルミエ王国の復活を誰より願う彼が、プリキュア達を怒らせる程の態度を取るなんて出来ないだろう。
 彼の前で口にした言葉はすべてただの言い訳。己れを正当化するただの言い訳だ。
 僕はナッツに自分の都合の良い嘘をついたのだ。
 ナッツのを手にした時、己れの馬鹿さ加減に手が震えた。そこでやめておけば良いのに、口淫までする必要はどこにある?
 一言、プリキュア達はまだ多感な年頃で幼い子供なのだから協力してもらっている自分達の態度が物事を左右する場合もあると言い聞かせれば良かっただけなのに。
 ナッツに対する気持ちが暴走してしまいそうだ。
 親友という枠を邪な気持ちで越えてしまった想い。いつからかなんて思い出せない。
 パルミエでは、任務に忠実でピンキーに優しい彼に好感を覚え、心にあったのはただ尊敬にも憧憬にも似た感情だけだったはずだ。
 親友としての毎日が楽しく、永遠に続くと信じていた。
 最後の日。
 ナイトメアの襲撃で最後まで勇敢に戦い、傷ついてドリームコレットに消えたナッツをただ傍観するだけしか術はなく……。
 別次元へとコレットとともに落ちていったナッツ。もちろんナイトメアは全員がコレットを追って行き、僕一人だけが無残に搾取されかけた命を拾ったのだ。
 パルミエの惨劇の中、たった一人立ち竦み、コレットとともに消えたナッツのおかげで命を救われたのだと気付いて……。
 原因を作った彼の責を問うよりも、消えてしまって初めていかにナッツが大切な存在だったか思い知ったのだ。
 そこからだったのかもしれない。ナッツを親友以上の視点で思い出すようになったのは。
 どんな願いも叶うドリームコレット。不完全な姿となって混沌の世界に落ちたドリームコレット。まずはこれを見付けて、そしてナッツを復活させるため伝説の戦士プリキュアを集めると決心し、混沌の世界へ身を投じコレットを追い掛けた。
 すべてはナッツのためだ。
 パルミエを復興させるのもナッツの心の傷を癒すためで、目標だと言い聞かせてきた。
 なのに、今はこうしてナッツと一緒に何の束縛もなく生きていける方が重要に思えてしまっていて……。
 本当にバカだ。
 王国に戻ったら自分は統治者としての生活があり、ナッツは再びコレットとピンキーの為に生きるのだろう。
 人間界にきて一人、色々と学ぶうちに復活を待ち望むナッツへの気持ちを恋愛感情というものだと気が付くなんて、緊張感がなさすぎる。
 単に待ち望みすぎたための錯覚かとも考えた。またはこの人間体に影響された錯覚だとも。
 しかし身体も心もナッツを望み、苦しいぐらいに求めている。
 いっそこの想いを打ち明ければ楽になるのかもしれないがそれだけは出来なかった。
 打ち明けても拒絶されるのは解りきっている。どうせ嫌悪されるか単なる同情からの言葉だろうとしか受け取ってもらえないだろう。
 だからこのままの親友で良い。それですら愚かな僕には十分すぎる。
 この間違った関係を正すのは僕の役目だと解っているのに、何も出来ない愚かな僕に告白する資格はないのだから。
 今夜もまたナッツがやってくる。そして僕はこの手でナッツを汚すのだろう。
 親友の彼にこんな気持ちを抱く僕はなんて汚いのか。せめて、もう二度と身体だけは繋ぐ事のないようにしなければならない。
 そしてパルミエに戻ればナッツに対する気持ちも失われると信じ、一刻も早くピンキーを集めて元の世界に戻ろう。
 元の親友に対する気持ちに戻れるのなら……。
 どんなに辛くても今は耐えてみせよう……。






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