君と僕の温度差 3




 ドリームコレットから出る事が出来て、そして人間界での生活も一応は軌道に乗り始めていた。
 ココは律儀に小々田としての仕事をこなすために朝早く出勤する事もあれば、会議とやらで遅くなる事もある。
 最近は嵐の前の静けさなのかナイトメアの襲撃も鳴りを潜めていた。
 ココのようにピンキーの気配が判る訳でもないので、こうして住みかを守るだけで毎日が過ぎていく。
 パルミエから逃げ出したピンキーも五つの守護の光に惹かれてプリキュア達の近くへと集まってくるため捕獲は順調のようだった。
 それなのに自分は漫然と、もどかしい毎日を過ごしている。
 今日も放課後になればあのかしましいガキどもが、否、プリキュア達がここにやってくる。
 秘密基地と云うが本来の所有がプリキュアの一人にあるのだから文句は無いが、緊張感のない、胃袋を満たす事に夢中な少女達を見ているとバルミエ王国の復興が夢物語のような気がしてくるのだ。
 襲いくる脱力感。
 それにしてもこの身体は不便極まりなく、ちょっとした事でむしゃくしゃしたりイライラしたりと落ち着かない。
 プリキュア達の楽しげな笑い声が欝陶しい。
 秘密基地だとか大騒ぎしながら毎日やって来ては生活を乱す彼女達。伝説の戦士に言うべきではないが、こんな子供がプリキュアというのも不安を大きくした。
 本当に大丈夫なのかと怪しんでいると、いつの間にか帰宅していたココに腕を引かれていた。
「ちょっとすまない。ナッツ、話がある」
 そう言って二階のココの部屋へと連れてこられる。教師としての仕事にも支障のないように知識を得るためと、本が山積みにされた部屋だ。
 どうせパルミエに帰れば不要だろうにどうしてそこまで熱心になれるのか。
 感心というよりも呆れているとココは話を切り出した。
「あ、あのさっ。ナッツ、たまってんじゃないの? その、人間の身体はデリケート、だから、ちゃんと処理しないと」
 言い淀みながら言葉を連ねるココを見るととても顔が赤い。
「処理?」
 いったいココが何を言っているのか解らなくて、聞き返すと『やっぱり』と、言いたげに肩を落とす。そして意を決したようにこちらを見る。
「い、一回だけだから、やり方を教えるだけだから」
 膝をついたココの白い手が股間に伸びる。何をするのかと見ているととても言葉に出来ない事が目の前で始まっていた。
「ココ?」
「見るなよ、」
 頬は赤く、上下に動かされる手は震えている。
「人間の男ってのは、定期的に出さないとダメみたいだから。っていうかたまってるから、ナッツの態度が悪化してるだろう?」
 普段から人付き合いは良くない自分だったが、ココに心配されるほど苛々していたらしい。
 確かに苛立ってはいたが、その原因はココが言うように処理していなかったからなのかは解らない。
「プリキュア達にひどい態度をとって、協力してもらえないと困るんだ」
 今度からはこういう風に自分でするんだぞ。そう、手を器用に動かすココに、この感覚は、先日ココの中で体験したのと同じものだと気が付いた。
 しかし、一度覚えた感覚は手だけでは満足出来ないほどの昂ぶりを覚えている。
「えっとー、手じゃイけない?」
 オマエは覚えていないだろうけど、先日みたいにオマエの中に出したい。そんな言葉を口にするのは憚られて、ただ黙っているとココは大きな瞳をさらに潤ませていた。
「ホント、一回キリだからなっ」
 口腔内に導かれ、すっかり立ち上がったモノに対しココは丁寧に舌を絡ませてくるではないか。そこはとても温かく絡み付く舌は弱い部分を攻めてくる。
 気が付けばココの頭を掴んで、自ら腰を動かしていた。
 これを口の中に出してはマズいかと思い引き抜こうとした瞬間、強く吸い上げられタイミングを失ってココの顔面を汚す。
「多い、濃いっ。やっぱ溜まってたんだなー」
 衣服まで汚してしまった事など気にもせず、人間ってホント煩わしいなとココは笑顔を見せる。
 これでスッキリしただろうと問うてくるココだったが、確かに言う通りだと思いつつもこれだけでは満足出来ないでいた。
 この間のようにココを背後から貫きたい。そしてもっと締め付ける感覚の中で出したいという欲求が生まれてくる。

(なんだ? この感覚)

「ココ、は慣れてるのか?」
 この世界に適応出来るように身を窶せば、その能力の完璧さゆえにリスクも負う。それが生殖能力に関する事だなんて……。
「人間界、結構長いからね」
 無邪気だったココは小々田として擦れてしまったのか自嘲のような表情を見せていた。
「オレは慣れてない。この身体にもだ。自分でなんかしたくない」
 何が悲しくて一人でこんな事をしなければならないのかと吐き捨てた言葉に、ココはちょっとメンテナンスだと思えば良いさ、なんて軽く返してくる。
 汚れた衣服を着替えるココの背中。先日つけた鬱血の痕。
「ココがしてくれ」
「ええっ?」
 振り返ったココの顔が紅潮しているのは怒りからだろう。さっきと同じ事をしてくれという申し出に戸惑わないはずがない。
「慣れてるんだろう?」
 こっちの世界で生きていくためには慣れも付き合いも必要なんだろう? そう含みをもたせればココは拒否出来ないはずだ。以前ココから言われた言葉での要求。
 意趣返しは効果があったらしく、ココは諦めたように瞳を伏せる。
「手、だけなら貸してやる」
 口はもうしない。それで良いなら手伝うと約束したココの哀れな様と言ったら。元の姿であったらどれだけ憐憫の情を催すだろう。

(本当は嫌なんだろうな)

 ぼんやり考えるが全てはパルミエへと帰るまでの我慢だと己れに言い聞かせる。帰ればきっと人間界の事なんて非常時の事として忘れるだろうし、そもそもこんな欲求に身を焦がす事もないのだから……。









NEXT