最後の恋 7




 ホスト部のミーティング中。次のイベントを何にするか、色々と議題にはあがってもいつも殿の思い付きで何をするか決まる。
 それを鏡夜先輩が補足したり、また部として都合の良い方向へと軌道が修正される事もあるが、ほとんどが殿の意向どおりに運営されていた。
 だから殿が開口一番に、
「パーティーをしよう。盛大に、だぞ!」
 そう宣言しても、誰も理由を問う事はしなかった。
 それでも、誰の誕生日でもない時の唐突なイベントに、鏡夜先輩あたりが反対すると思っていたが何やら計算しつつ頷いてみせた。
「まぁ会費制というなら考えよう」
 実質のゴーサインに、皆から色々な企画が出される。
 そんな様子を伺いながら僕は、一人反対しても無駄なのだと口を閉じていた。
 別にパーティーが嫌な訳ではないが、光に振られてから、どうも心の奥がすっきりとしないのだ。今思えば、振られるだろう事は分かり切っていた事なのに、どうしても割り切れなくて気が付けばため息が出た。
 光は隣に座っているハルヒに、大トロを用意させようだとかキャビアとかフォアグラとか食べ物の話を持ち掛けて盛り上がっている。
 見てはいけない。見れば心の刺さった刺が痛みを増す。
 なのに、神経は光の行動に鋭敏になっていて……。
 わざと意識を殿に向けると、先程からずっと今回の企画について話していたらしい。
「ハルヒには是非素敵なドレスを用意せねば! 父として娘に恥ずかしい思いをさせてはならんからな」
 テンションの高い殿が僕を指差す。
「馨にはハルヒのメイクを頼むぞ」
 特別に愛らしく、いや、ハルヒはそのままでも充分に可愛いが、さらにその愛らしさを引き出すのだ! そう言葉にしたウザイ殿に適当に相槌を打って、確かにハルヒとは女同士で気安いと僕は考えていた。
 ハルヒ自身にメイクさせるよりはマシだろうからと、その後の僕は気分を切り替えて当日の打ち合せに集中したのだった。




 そして当日。一時間も早く僕とハルヒは合流して、衣裳の着付けやメイクをしていた。
 男性陣の衣裳も殿が用意してくれるらしいので普段着のままだったが、そろそろ着替えなければと思っていると殿が部屋へと入ってくる。
「おぉ、馨! 父は嬉しいぞ。今夜は馨の晴れの姿を見られるのだからな!」
 すっかり着替えを済ませた殿の衣裳は見事な白を基調とした燕尾服。それに金髪がよく映えていて思わず見惚れてしまっていると同じ燕尾服を差し出された。
 これなら光もよく似合うだろうと思いつつ殿の手から受け取ろうとしたら、素早くその衣裳を、まるでデビュタントがまとうような淡い色のドレスへとすり替えられた。
「ちょっと、殿?」
 しかし全ては殿の計画だったようで、ハルヒまでが殿に協力して僕にドレスを着せようとするものだから、これはいくら粘っても無駄だろうと僕は降参したのだった。



 パーティーでハルヒと二人で女装だなんて誰が予想出来ようか。大勢の姫達に紛れる事が出来たものの良い笑い者だ。
「ったく殿のくせに」
 サイズまでがぴったりで憎らしい。さすが、殿。フランス男としての面目躍如だ。
 しかし、いつの間に僕のサイズなんか把握していたのだろう。よく調達できたものだ。
「馨、美人だね」
 ハルヒが僕に話し掛けてくるが、冗談はよしてくれってカンジだった。
 視界を邪魔するキャラメル色をしたふわふわな髪のウィッグ。メイクは自分でしたけれど、どうみても男の女装で見れたものじゃないと自覚はある。
 ハルヒこそ漆黒のストレートヘアのウィッグに目元を強調したメイクが誰よりも愛らしい仕上がりになっている。
 ヒールのある靴をはいても僕の肩にまで届かない身長は庇護欲をそそる。
 それに比べ……。
「こんな背の高い女……」
 どこを見てもこんな大女いやしない。
 本当ならまがいなりにもホストとして姫達とダンスを楽しんでいたのに、今は時間を潰すしか術はない。
「馨より背が高い人なら、鏡夜先輩や環先輩、それにモリ先輩がいるじゃない」
 それに外国のモデルならありえる身長だよ。と励ましてくれるハルヒ。こんな上に長いだけで使い道があるなら良いが実際のモデルはスタイルも良いのだ。
 到底僕には縁の無い話で……。
 あーあ、早く終われば良いのに。そう僕がフロアを眺めていると鏡夜先輩が近付いてきた。
「馨姫、どうぞ最初の一曲目を踊る栄誉をこの俺に」
 鏡夜先輩が壁の花達に声を掛けているのは知っていたから、どうせ僕もその内の一人なのだろう。
 確かに鏡夜先輩は僕より身長は高いし、リードする手も大きく力強かった。
 女役で踊るなんて久しぶりで、緊張するのは決して鏡夜先輩と踊っているからじゃない。


 だけど、なぜか僕の胸は高鳴るのだった……。






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