最後の恋 4
騒いでばかりの反省会が終わり、深夜近くになって皆割り当てられた部屋で休む。 勿論僕は光と同室。 「ハルヒは僕らの見分けがつくんだよ」 他の奴らとは違うと言う光の輝く笑顔が眩しい。 「嬉しいようだね」 「そっくりって言ってもやっぱ違いあるじゃん。自分でもたまに鏡見て馨がいるってびっくりするんだけどさー」 一通りハルヒを誉める光に同意したい気持ちもあったが、些細な光の言葉が引っ掛かっていた。 『自分でもたまに鏡見て馨がいるってびっくりするんだけどさー』 それって嫌だって事? 両親ですら見分けがつかない事が嬉しいのに光は嫌なの? 鏡の中にお互いがいるってのは気持ち悪い事? 淋しいよ、光。僕ら双子でいつだって一緒だったのに。何故か距離を感じる……。 もう少し一緒に居たいってのはワガママな事なのかな? 「ねぇ光そっちで寝ていい?」 ダブルベッドが二つ並べられている客間だったけれど、もっと光の傍に居たくて僕は光のベッドへと潜り込む。 「まったくいつまでたっても恐がりだよなー。外見はそんなに男らしいのに情けない」 どうやら初めての場所で僕が昔の頃のように恐がっていると思ったらしい光の発言に、僕は眉を寄せる。 「一応は女の子だけど?」 だから恐がったってカワイイもんじゃないかと思う僕だったが光は『その外見で?』と言いたげに僕を見つめ返す。 「もうマジで男でいいじゃん、皆もそう信じてるんだし。まぁ今更戻れないだろうけど」 そんな小バカにしたような光に僕はむっとしていた。 確かに外見は少年そのものだ。 胸だってまな板だけど、それはハルヒと同じ。 それなのに光はハルヒをちゃんと女の子扱いしていて、僕はと言えば同性としての能力や価値観を求められている。 理不尽だって思うのは僕のワガママだろうか……。 僕だって女の子らしく着飾れば少しはマシになるんじゃないかと考えても、やはり僕には無理だと肩を落とす。 ハルヒの着ていた服を着ている僕を想像してあまりのヒドさにバカバカしくなったのだ。 所詮女物なんて僕には似合わない。 高すぎる背も、広い肩幅も女にしておくのは勿体ないぐらい。 柔らかさや、たおやかさのないこの身体で女の子らしくなってどうするのだ。 光の気を引くため? それこそバカバカしいではないか。 光は双子の兄なのだ。 そして僕は光にとって何でも話せる双子の弟なのだ。 いっそ僕が本当に弟なら良かったのだろうか。そうすれば絶対に双子の兄に恋なんてしないだろうから。 だから今度生まれ変わっても双子だっていうのなら、光と同じ性を望もう。 この僕の事だから男同士で恋してたりするかもしれないけれど。きっと今よりは悩みも少ないだろう。 光を好きだと思っても、血の繋がった妹が兄に恋するのは禁忌。愛とはただの肉親的なものに止まるべきなのだ。 本当なら遺伝子レベルで制御されるはずの想いなのに、僕のはきっとどこかで壊れてしまったのだろう。 光が僕から離れて、そして僕は近い将来この想いは錯覚だったと気付くのだ。 それでも……。 今はこんなにも胸が痛い。 もっと女らしかったら。 血が繋がっていなかったら。 僕の前には問題ばかりが山積みで……。 答えは簡単。 光を忘れれば良いのだ。 でもそれは無理だ。もう少し時間をかければ忘れられるかもしれないけれど。今は無理。僕はこんなにも光が好きで……。 こぼれる涙を見られないように枕に突っ伏していると光が優しく頭を撫でてくれた。 「大丈夫、お化けなんてでないし。僕がいるだろ?」 僕が泣いているのを、恐がって泣いていると思っている光の鈍感さが今は有り難かった。 そして山積みの問題の一つが解決する日がくるなんて、この時の僕は思いもしなかったのである。 |