別離の儀式  2




 初めて光と一つになったのは高等部に上がる前の春休みだった。まだ肌寒い空気に身を寄せ合って営業の練習だと絡める指を口に含んだ瞬間。燃え上がる炎のように。

『ちょっと光、絶対無理、ありえない。僕相手に勃ってるって!! それとどうして僕が挿れられなきゃなんないワケ?』
『か、馨馨、もう限界、突っ込ませて』
『えぇぇぇ、やだってー、痛っ痛い、しぬ!』
『あれっ、かっかたい、痛っっ、馨っ絞めすぎっっ』

 光の屹立したモノが無理に押し入ろうとして、それでも不慣れなセックスは互いに痛みを覚えただけだった。
 普通なら『やっぱ無理か』と諦めるだろうに。
 意外と気の長さを見せた光。初めは指だけで慣らされて……。

『ほら、指ならちゃんと飲み込む』
『こんな格好やだーっ』
 大きく開脚させられ指によって犯される。それは初めての感覚。
 奥を弄られて、次第に快楽が呼び覚まされる。
『光っ、なんかヘン』
『気持ちイイ、だろ? こんなに堅くしといて』
 光の手に包まれての射精。自慰とは違う悦楽。
『はぁ、あぁ、んぅ』
 自分の鼻にかかったような甘い声に驚く。こんなにも艶を帯びた声で喘いでいたなんて。
 何度かイったら逆に身体が次の快楽を求めて。
 指とは違う質量に蹂躙されたらどんな快感がそこにあるだろうかと些細な好奇心。


 光と本当の意味で一つになったのはそれから一週間後だった。


『ぜんぶ、は、いった?』
『すごい、馨、馨。熱い。キモチイイ。馨の中、最高』
 バカみたいに単語を羅列する光の表情は欲望という獣のようで。
『うん、光のが、……脈打ってる』
 内側からの刺激は意外にも性的快感を呼び覚まし、光が動くのを愉悦でもって受け入れる。
 光が気持ち良さげに腰を動かすのを見ているだけで心が感じて……。


 身体に心が支配されたのか、心に身体が支配されたのか。どちらか解らなかったが、続けても良いと思っていた。





 自分達だけになってしまった第三音楽室。三年生が一足早く卒業し、終業式までの間。
閑散とした部屋に虚しさだけが押し寄せる。
 その時……。
 潮時だと、やっと気が付いた。
 いつまでも留まっていられない。どんなものも形を変えていくから。この気持ちもきっといつか……。
 ホスト部も三年の卒業式で閉店という解散をしたから、兄弟愛を演じる必要もなくなった。


 もう続けられない。
 続けていく自信がない。
 続けてて良いのかも解らない。


 セックスも恋愛ももう清算すべき時期なのだろう。





「馨、ここにいたんだ? 」
 一年の時とは違う。一歩ずつ女へと近付いていく彼女を見て、僕達の関係もそろそろ終わると気が付いた。
 彼女なら光を預けられる。
 彼女なら光を導いてくれる。
 それは確信。


 だから僕の手で終わらせたのだ。光の驚いた顔に心が痛んだが、終われば終わったでとても気分が良かった。

 心が軽い。
 これは、後ろめたさがなくなったからだと、そう思うと涙が零れた。


 もうすぐ18才になる。心が残らないように、後戻りできないように、顔の知らない誰かと縁を繋げるのも良いだろう。
 常陸院と縁続きになりたい家ならたくさんある。光のために身を退いて、光のためにこの身を捧げるが僕の選ぶ生き方なのだから。


 別離の儀式は、僕の嗚咽で幕を降ろしたのだった……。








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