当たり前の奇跡 02




 近頃の馨の様子がおかしいと解らない光ではない。
 何しろ双子なのだ。血の繋がりだけではない何かが自分達の間にあることは幼い頃から自覚している。
 難しい顔をしてパソコンに向かっている馨。同じ顔をしているはずなのに馨を可愛いと思ってしまうのは馨の方が弟だからか。
 ぶつぶつと独り言を言っていた馨に光は問うてみる。
「あー? 何か言った?」
「べっつにー」
 何やら機嫌が悪いのは一緒に作業してやらなかったせいだろうと光は納得して読んでいた本を閉じる。
「なぁ、馨。もう寝るけどどうする?」
「んー、もうちょっと起きてる」
 部のホームページを更新するのだと言っていたが別に急ぎの訳でもないのに一体どうしたのだろうかと光は疑問に思う。
 もう時間も遅いし眠るべき時間だ。
「一人じゃ淋しいなー」
「バーカ。さっさと寝なよ」
 間接的にもう寝ようと誘ってみたものの馨は画面を見つめたまま速答する。
『何かがおかしくなっている』
 ほんのちょっと前まではいつも一緒だったのに、少しずつ距離が出来てきているのは気のせいだけだろうか。
 一人淋しく寝室へと入り、まだ冷たいシーツの上で自分の感じている事が気のせいだけではないと光は答えを導きだす。
 どうして馨は一緒に眠ろうとしないのだろう。
 夜は大抵、色々な話をしながら眠っていたのにこの頃は違う。
 待ちくたびれて眠ってしまった頃に馨がベッドに入っているのだろうと思うと光はほんの少し腹が立った。
 朝だって早くから起きだしている事も多いし、まるで避けられているかのよう……。
 どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろうと、悶々と考えていると扉が開いて馨が入ってくる。
 悪戯心が沸いてきて光が慌てて寝たフリをしているとスプリングの音がして馨が同じベッドへと入ってきた。
 避けているなら絶対に同じベッドでは眠らないだろう。
 考えすぎだったのだ。
 だってこんなにも馨は自分を求めてくれている。そう思うだけで光は嬉しくなった。
「かーおるっ」
 語尾にハートマークでも付きそうな勢いで名を呼ぶと、驚いたように馨は目を見開く。
 しかし次の瞬間にはいつもの表情に戻っていて、ほんの少し拗ねたように馨は口を尖らせた。
「折角作ったデータ飛ばしてやんなっちゃうよ」
 同じ顔なのに可愛いと感じて光はそんな自分の感覚を一蹴する。
 兄弟なのだ。それも双子。この関係が壊れる訳がないし崩れるはずもないのだ。
 確信を持ちたくて光はいつものように馨を抱き締めるとその身体が小さく跳ねる。
 顔を覗き込むと案の定赤い顔をしていた。
『やっぱり可愛い』
 何故だろう。これが兄弟というものだからなのか。世間の兄という存在はすべて弟という存在を可愛らしく思うものなのだろうか。
『きっとそうだ』
 光は腕の中の馨を強く抱き締める。
 少し胸がドキドキして楽しくなってきて、まだまだ眠れそうになくて……。けれど光は思うのだ。
 双子に生まれて良かったと。


 それが覆されるとは思いもしないで……。








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