当たり前の奇跡 01
双子と一括りにされるのは不本意だと馨はいつも思っている。もしかしたら光も同じ事を考えているかもしれないとも。 何故なら二人はかなりの確立で思考回路はほぼ一致しているのだ。 見た目だけでなく、食物の好み、服の好み。『違う』事を探す方が難しいかもしれない。 しかし……。 「一緒な訳ないじゃん」 「だって光の方が悩みないし」 「あー? 何か言った?」 「べっつにー」 軽く言ってみた馨はそんな自分に自己嫌悪する。 こんなにも黒い事を考えている自分が嫌だった。もっと気楽に双子を楽しめば良いのに考えすぎて答えが出ない。 『どうして好きになったのだろう』 心の中だけで馨は呟く。 きっと光はこんな事を考えてはいないだろうと思うだけで、馨は自分の黒く汚い部分を認識させられた。 彼は自分の兄であり、決して恋愛対象になるべき人物ではないのにと……。 「なぁ、馨。もう寝るけどどうする?」 「んー、もうちょっと起きてる」 「一人じゃ淋しいなー」 「バーカ。さっさと寝なよ」 部のホームページ用のデータを更新しつつ、馨は光が先に眠るのを待つ。そうすれば愛しい人の寝顔を少しでも長く見ていられるからだ。 「我ながら情けない」 女々しいとも馨は思う。 双子になんか生まれなければ良かったのに、兄弟なんかに生まれなければ良かったのに、いっそ一つのままで良かったのに。 そんな答えの見つからない、無い物ねだりに馨の心が軋んだ。 軋んで軋んでいつか壊れてしまうのかもしれないと自嘲しつつ、壊れてしまえば楽になれるのにと乱暴にキーを叩く。 『好きです』 自分で打って画面に現われた文字を馨は容赦なく消していく。そうする事で自分の中の恋心も消してしまえるかのように。 「あれ?」 ふと、肝心なデータを消してしまった事に気付いた馨は青ざめる。考え事をしながらとはいえ、長時間取り組んでいた作業なのにそれらが水泡に帰したのだ。 今夜はもう止めておけという事かもしれないと馨はパソコンの電源を落とす。 寝室では光はもう寝ているだろう。 その隣に潜り込んで愛しい彼の寝顔を見つめながら眠ろうと馨は部屋を後にするのだった。 消した電気のようにこの感情を消してしまいたいと思いながら……。 |