甘い夜の夢 前編




「これ良くない?」
 これから遊びに行く予定で、着替えてきた馨がご機嫌よろしく新しい服を披露してくれたのだが……。
「ぜーんぜん」
 良くない。ぜーんぜん良くない!
「何、光? 光が穿きたかった?」
「誰がそんな破れたジーンズ」
「クラッシュジーンズ! 光だってたまに穿いてるじゃん」
 確かにたまに穿いているけれども、馨が穿くのとはまた別の話だ。隙間から生足が見えてるっつーの!
 おまけに……。
「……その位置。自分で破ったの?」
「うん、ポケットの位置が気に入らなくって。なんか足が短く見えそうだったから、取ったら破れちゃって。変?」
 馨のバカ! その位置ってまんまお尻で、『お前今下着穿いてないだろーー!!』
と怒鳴り付けてやりたい。
 見えてる。
 見えてない。
 見えてる。
 見えてない。
「……」
 やっぱり見えてる。
 破けた隙間から見えるのはお尻だ。太股というよりはお尻だ。
 それでどこへ行く気だよ。ホスト部の皆と会うって言ってなかったか? 断じてお兄ちゃんは許しませんからっ!
「脱げよ」
「ヤだね」
「脱げって」
「光に命令される筋合いありませーん」
「脱げってんだろ!」
「じゃあ、力ずくで脱がしなよ」
「いいんだな?」
「どうぞ、どうせ光には無理だろうけどね」
 馬鹿にした口調の馨に決して長くない堪忍袋の緒が切れた。
 両手を広げている馨に近付いて。
 ジーンズのホックに手をかける。
 このジッパーを下ろせば、やはり見えてしまうのだろうかと思うと手が震えた。おまけに喉が鳴ってしまって……。
 馨の顔をこっそりと伺うと、目元を赤く染め視線を逸らしている。薄く開いた唇から覗く舌がペロリと上唇を舐めていて……。
『ええいっ』
 見るなら是非ともじっくりと見てやるさ!!とばかりに一気にジッパーを下ろし、ジーンズを膝まで下げる。

 が……。

「じゃーん、これなら文句ないでしょ?」
 いつものボクサーパンツを穿いてなさそうだったからてっきり……、と思いきや、なんて大胆な下着を穿いているんだっっ!
 お尻を突き出して見せるその姿の扇情的な事と言ったら……。
「別に、ちょっとぐらい見えてたって誰も気にしないって。だから脱がなくっても良いでしょ?」
「……馨の、バカっ! 俺が気になるんだよっ!」


 怒りに任せて馨を突き飛ばすと、膝まで下げてあったジーンズが馨の行動を制約し、普通はよろめくだけで済むところだったが馨は後のベッドへと倒れこむ。
 しかし馨もただで突き飛ばされてはくれなくて、僕のシャツを右手で掴んでいたために、一緒になってベッドへともつれ込んだのだ。


 僕の下には、あられもない格好の馨……。
 高鳴る心臓。
 そして馨はゆっくりと瞼を伏せて……。


 僕のその後の記憶はない……。








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