雨後の月3





「珍しいな、アキラくんが。誰か部屋に連れていってやれ」
「僕がお送りしますよ。ええ、マンションは知ってますし、近いですから。いいえ迎えの者となら運べますよ。」
「ふむ、それも面白いな」
「何がですか?」
「いいや、こっちの話だ」
 ぐらぐらとした、曖昧な感覚の中。それが緒方と越智の会話だと、かろうじて残る意識の片隅で認識しながらも、アキラは手も足も出せずにいた。
 身体は既に酔いに任せた睡眠状態で、人が言うなら酔っ払ったと表現するだろう。急速に遠くなる意識をまずいと思いつつもアキラはそれに逆らえなかった。
 愛しい恋人の笑顔が見えたような気がして、アキラはそのまま意識を手放したのだった。



 ゆらゆらと浮上する意識。
 顔に掛かった髪を掻き上げながらアキラは身体を起こす。
「ここは?」
 見知らぬ部屋。
 濃いブルーを基調としたその部屋には碁盤と並べかけの碁石がある。
 それが気になって起き上がろうとして、まだ少し残る酔いに自分が酔い潰れたのだと思い出す。
 下着すら身につけていない自分。他人に迷惑を掛けるような事をしでかしたのではないだろうかと思うと気が重くなってくる。
 しかし記憶を手繰ろうとしても何も思い出せない。
 春の日差しが暖かいといえどアキラは肌寒さを感じ、着るものはないかと周囲を見渡した。
 言い訳だが、ベッドが広すぎたのだろう。
 そして自分の昨夜の行動を思い出すために周囲には気を配れなかったのだ。ましてや、いつも隣で人が眠っているのでその存在に違和感を覚えなかったのかもしれない。
「ここは、僕のマンションですよ」
 上半身を起こす越智も見えるかぎりでは何も着ていない。
 サイドテーブルに置いた眼鏡をかけなおすと越智はため息を吐いてみせた。
「……僕を何と呼んだか覚えてますか? かなり力が強くてびっくりしましたよ」
 急に覚える喉の渇き。
「まさか」
 条件的なものをすべて上げてアキラは別の寒さを感じていた。そんなはずはないと、間違えるはずはないと思いつつも、無い記憶では否定しきれない。
 脱ぎ散らかされた衣服。
 汗でべたつく身体。
 ヒカルと越智を間違えるはずが無い。しかしこの状況下では否定する材料はない。
「あなたは僕を進藤と間違えた。責任取ってください。公表もしくは訴える事も考えていますから、その辺を考慮した上で検討してください」
 心臓の音が響く。
「無理矢理にしたのか?」
 まさか、そんなはずはない。
「紳士的でしたよ。ただ貴方は進藤と僕を間違えただけです。いつものようになさったのでしょうね」
 越智の眼鏡の奥の瞳がアキラを射るように見つめていた。
「一度だけしか言いません。進藤とは別れてください。僕と付き合えとは言いませんから」
「君は……」
 越智はアキラの恋人が進藤ヒカルであると知ってこんな事をいうのだ。
 その心中は……。
「そうです、貴方が好きでした」
 だから抵抗も否定もしなかったのだろう。
 だが。
「合意のうえなら脅せる訳が……、」
 たとえ自分が越智とヒカルを間違えて押し倒したのだとしても。越智には抵抗する理由が無かった、むしろ望んでいたのだとしたら脅迫するのは間違っている。
「……それでも貴方は進藤を裏切ったんですよ」
 越智の言葉から一つの答えが見つかる。
「君は僕を陥れたかったんだな」
 酔いにまかせて、恋人だと誤解させたまま既成事実を作ったのだろう。
「それでも、……この事を知ったら世間は大騒ぎになるでしょうね」
 自分のものにならなくても良い、ただ誰のものでもなければそれで良い。特に進藤ヒカルのものでなければそれで良いと。
 アキラには越智の気持ちが痛いほど伝わってくる。
 越智の言葉がいつまでも脳裏に響いていた。




さてアキラさんは。
1、やった。
2、そんなはずはないっ!!
3、泥酔してるのに勃つ訳ないだろう?
4、人類未踏の花園を踏み荒らした


答えは4番vv……、実はアキオチ好きなんです。殴らないでぇぇぇ


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