砂漠の風7




 強引に部屋に連れ戻され、ヒカルも佐為も憤慨しているとアキラはヒカルの腰ひもを解きにかかる。
「ちょっ、ちょっと塔矢! 何にもしないって約束だったろ!!」
 抵抗しようとしても器用さは相手の方が数段も上で、あっという間に下に着ていた薄布だけにされてしまう。
「やだよ、塔矢……」
 後に下がり、胸元を隠して涙目で訴えてみるが、アキラは一歩ずつヒカルへと近付いてくる。
『ヒカル早く逃げるのですっ!』
 佐為の叫ぶ声も虚しく、ヒカルはアキラに見据えられたまま動けなかった。
 しかし。
「期待させて悪いけれど、これを着て?」
 差し出されたのは、ヒカルがさっき着ていたよりもかなり厚めの服。風も砂も通さないため砂漠に出る時は必ずこの材質の服を着るのだ。
 ただし難点があってかなり重さがある事と、通気性が悪いので重ね着には適さないのだ。
「だっ、誰が期待したんだよ!」
 おそらく砂漠に出る用事があるのだろう。おまけに自分もそれに付いていかなければならないらしい。
 アキラの手からその服を奪い取ると手早く身体に巻き付ける。なるべく顔しか出ないように着付けている間にアキラの用意は整っていた。
「行こう、進藤」
 手を取られ表に出てみるとそこに有ったのは、一頭の馬と少量の荷物。
「何これ……?」
『どう見ても旅支度ですよね〜』
 顕らかに解る旅支度にヒカルと佐為は眉根を寄せる。一体アキラの目的は何だろうとヒカルが訝しげにアキラを見上げると、これ以上無く優しげに笑みを見せた。
「砂漠の夜明けは見た事ある? とっても綺麗なんだ」
 そう言うと素早い動作で馬に跨がり、軽々とヒカルを前に乗せた。
「ちょっと、俺は別に見たいだなんて言ってない」
『そうです、ヒカル。もっと言っておやりなさい。塔矢のブ男ーとか』
 それは無いだろーと心の中で佐為を窘めていると、馬は日の傾き始めた砂漠を東に針路を取り始めた。
「この時期にしか見れなくてね。太陽が昇る僅かな瞬間の光の恵みはまるで進藤みたいに美しいんだ」
 アキラが何やら説明しているのは解るのだが、支えるために腰に回された手が馬が走るときの振動によりヒカルに身体を撫で回されているような感覚を与えたのでとてもじゃないが話に集中できなかった。
 おまけに背中にはアキラの身体が密着されていて、想像したくないのに毎夜のアキラの裸体が浮かび上がる。
 寝相のあまりよろしくないアキラに抱き枕のように抱きつかれた時など、腰に当たるアキラの逞しいモノに安眠出来なかったのだ。
 今もアキラの腕の中に居るだけでヒカルの心が騒ついた。
 暫く馬を走らせていると、足元が砂地から、やや湿度を保つ土へ変化し、背の高い木々が見えたかと思うと小さなオアシスに到着する。
 中央の泉は夕映えによって黄金の輝きを見せ、ヒカルはその泉の美しさに歓声を上げた。
「うわー、自然の湧き水だぜ? めっずらしー」
 緊張で汗ばんだ身体が気持ち悪くて、ヒカルは頭からすっぽりと被った布を脱いで水浴びでもしようかと考えて、アキラがいた事を思い出す。
 常日頃訪れているのだろうか、アキラは勝手知ったる場所だとばかりに、小さな二人用のテントを組み立てている最中で、ほんの十分なら大丈夫かもしれないという誘惑にヒカルは勝てなかった。
『おやめなさいって、ヒカル』
「大丈夫、あの岩陰なら塔矢も気付かないさ、佐為はしっかり見張ってろよ」
 佐為の制止する声も聞かず、ヒカルはアキラの死角になる木陰で衣服を脱ぐと泉に入るのだった。
 
 もちろんアキラが気付かないはずがないのだが……。







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