LADY GO 7




 僕の父方の祖父は、まだ僕が小学校4年生の時に心筋梗塞で他界したのだが、そんな祖父の言葉が今でも僕の心の奥底に根強く残っていた。

『ワシのばあさんも柳腰のひ弱な女でな、結局行洋を一人産んだだけじゃった。健康そうだからと結婚を許した明子さんもお前を一人産んだだけじゃ』
 そう言って嘆く祖父の姿を何度目にしただろう。
 祖父の家はかなりの旧家で、後継ぎとなる男子が産めない女は里に帰される事もあったらしいが幸い祖母も母も男子を産んだ。
 だが一人産めばもう一人と望む祖父は欲深すぎるのか。
『なぁ、アキラ。お前が嫁取りをする時はワシがしっかりと選んでやるからな』
 そう言って祖父は僕の頭を撫でて言葉を紡ぐ。
『女はな顔より身体じゃ。尻はでかく、乳がよく出るような大きな胸じゃな。子供を4・5人育てられるような太い腕。こんな女は病気もせず畑仕事も男に遜色なくこなす』
 そんな一昔も二昔も前の基準を持ち出された僕は、そんなものなのかと納得していた。
 確かに塔矢家は身内が少ない。従兄弟どころか再従兄弟のいない境遇は今更どうとなるものではないが、もし僕に子供がたくさんいたら、塔矢家はどれだけ賑やかになるだろうか。
 きっと祖父だって喜んでくれるに違いない。

 それ以降僕は祖父の言葉を忘れたことは無かった。
 もし結婚するなら母のような美人でなくとも、子供をたくさん産んで育てることのできる頑丈な人と結婚しようと幼い頃から決めていた。勿論プロポーズの言葉ももう決まっていて、これだ!と思うような人がいたら、『僕の子供をたくさん産んでほしい』と言うつもりだった。
 だから緒方さんが進藤を見初めたと知っても『緒方さんはバカだなぁ』ぐらいとしか思わなかったのだ。
 進藤みたいな男のようなヒョロヒョロとした身体がたくさんの子供を産んでくれるだろうか。
 僕の基準で判断すると否。
 進藤なんか風が吹けば飛んでいってしまいそうじゃないか。そんなことでは子供を守るなんて出来やしない。
 まぁ人の趣味はそれぞれだから口は挟まないが……。


 そんな中、進藤が手合いを休み、若獅子戦まで無断で欠席したと知って僕の怒りは頂点に達していた。
 進藤の碁をこの目で見たい。僕を追ってプロになった進藤の碁。あの初めて出会った時のような碁……。
 そして葉瀬中に行った僕は衝撃的な出会いをしてしまったのだ。


 進藤が図書室に居ると教えてくれた彼女。髪型のセンスも体型もまさに理想にぴったりだったのだ。
 彼女の名前はなんというのだろうか。
 僕はそればかりが気になって、思わず土足で校舎の中に入ってしまいそうになった。
 胸の鼓動も早く、図書室へと向かう僕の脳裏に彼女の顔がちらついた。


 あぁ神様。運命の出会いをありがとう……。







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