LADY GO  1.5




 父さん、僕は人生最大のヘマをやらかした訳で……。

 何やらテーマ曲が流れてきそうなこの場面は、塔矢アキラの目の前からライバルになりえたであろう彼が逃げ出した直後の事である。

 正確には、彼だと思っていた彼女ではあるのだが、常日頃『女の子には優しくするものよ』という母の言葉があったので、ヒカルを泣かせたかもしれないというこの情況はアキラにとって非常に堪え難いものであった。
『君、女の子だったのか?』
 そう言った後、泣きそうな顔をしていたような気がするが、アキラもかなり動転していてはっきりとは覚えていない。

 しかし、どう見ても男以外の何者にも見えなかったのだ。
 もしかして自分の聞き違いかとも考えたが、それも可能性が低い。
 だが、視力2.0を誇る両眼でみても女の子には見えなかった。と、言うことはきっと自分は進藤ヒカルにからかわれたのであろう。

「あれが女の子だっていうなら、僕だって女の子だ」
 問題は視力よりも観察力なのだが、アキラは勝手な結論に達すると心の平穏を取り戻す。

 そんな塔矢アキラのまぬけっぷりに、淡いヒカルの想いが通じるはずがないのであった。


 そして気を取り直し、全速力でヒカルを追い掛け捕まえたアキラは二度目の対局で惨敗を喫し、彼の中から『女の子云々』はきれいさっぱり跡形もなく消え去ったのであった。 


 再び進藤ヒカル=女の子という数式が当てはまるのは、春もサクラの散る季節となる。





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