君の声が聞こえる場所1




 
 進藤家にヒカルという男の子が産まれたのは今から十数年前。
 祖父の平八が興した事業は不況をも乗り越えて、閉塞感のある日本の中でも目覚ましい業績をあげていた。
 だが。
 そこにあったのは平凡な家庭にあるような幸せではなかった。幼い頃からヒカルは自分を幸せだと思ったことはない。
 幼なじみで通いで手伝いに来ている藤崎家の姉妹の方が余程幸せだと常日頃から羨ましく感じていたものだ。
 仕事に打ち込む祖父と父。そして財界などにコネを作るためだと社交の場に引っきりなしに出掛ける母。
 欲しいものは何でも手に入った。
 ヒカルがただ一言欲しいとさえ言えば良いのだ。それを愛でたり見せびらかしたり自慢したり……。
 しかしいつしかそれがとても子供っぽい事に気がついて、ヒカルが十才の時には物を欲しがる事もおよそ無くなっていた。
 そして手に入らないものを欲しがるのも……、止めた。

 進藤ヒカル十二才になる年の春……。




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