真夜中の人魚姫 7
何事もなく一夜が過ぎたがロックオンの態度だけは違っていた。 いつもの彼らしくない眉間の皺。こちらを見る視線は険しい。 揶揄して嘲笑ったのは悪かったと今さらながらに思う。 ロックオンなら女の裸なんて珍しくないだろう。 第一に、自分ぐらいの体型で気付いてもらえるなんて傲慢じゃないだろうか。 ロックオンを見れば触れられた胸が熱くなる。心臓の音が身体中に響くようだった。 我ながら馬鹿な行動に出たと思う。呆れられて当然だろう。 ロックオンに気付いてもらえなくて浅ましくもルイスに嫉妬した自分が情けない。 渋々と言った様子でロックオンが話しかけてきて胸が痛くなった。 「なぁ刹那。なんだかんだでお隣さんに断りそびれたから今日は付き合ってくれるんだろう?」 ダブルデートだなんて意にそぐわないのだろう。昨日のうちならまだしも、当日になってキャンセルするにはそれなりの理由が必要だ。 行きたくないという理由では断れない。 生意気で可愛げもなく、一見男にしか見えない自分とデートなんてしたいはずがないだろうに。 せめて女に見えるようにだけはしなくてはならない。ロックオンが付き合っている女の見た目が性別すら解らないのでは面目丸つぶれだ。 しかし女物の服なんてあれしかない。ロックオンが似合わないと言ったあの服だ。 今までの生活もあり、自分にどんな物が似合うなんて解る訳がない。 しかし客観的に似合わないのであれば着たくないと思うのだが、代わりが無いのだからロックオンにも我慢してもらわなければなるまい。 いつもは窮屈な下着で押さえて潰している胸だけは解放してやろう。そうすれば少なくとも女には見えるだろう。 「了解した」 それだけ答えると身仕度のため自室へと戻る。ロックオンとの偽りのデートだというのにほんの少しだけ嬉しいと思ってしまう自分を叱咤しつつ部屋の戸を閉めたのだった。 朝一番に顔を合わせた時は今日のデートを了承した刹那が20分しても部屋から出てこない。約束の時間までまだまだ余裕はあるが、怒って出てこないとなると困りものだ。 待ち合わせは昼前という健全な時間帯のデートだなんて何年ぶりか。 はっきり言って気が重い。女の子の頼みだったからか亡くなった妹を思い出して断りきれなかった。 曖昧な態度で隣のカップルからの誘いを断われなかった自分が悪いとは言え、刹那もデートだなんて気乗りしないだろう。ましてやミッション中なのだ。 刹那からすれば、いきなり押し倒され胸を揉まれたあげく強姦される寸前だったとでも思っているに違いない。 昨夜の行動を振り返ると情けなさでいっぱいになる。大人げなかったと後悔しても後の祭りでしかない。 どうしてあの時、動揺を隠してタオルを渡すという行動が出来なかったのか。 あそこで無視出来ていれば余計なトラブルにもならなかったはずだ。売り言葉に買い言葉にしても酷すぎる。あんな子供を恐がらせたなんて。 反省しなければなるまい。そしてこれからは紳士らしく振る舞うのだ。 だがそんな決心も次の瞬間には消えていた。 部屋からおずおずと出てきた刹那。 あの白地にピンクの花柄のワンピースを着ていて目を覆いたくなる。 これがせめて赤ならマシだったか。 「似合わない」 パフスリーブだかなんだか知らないが、こんな一昔前のお嬢様チックな服は刹那にはまったく似合わない。馬子にも衣装とあるがあれは嘘だろう。 ショックを受けたかのように一瞬だけ瞳が揺らぐ。 ヤバイ失言だった!女の子相手に嘘でも似合うというのが男だろうがロックオン・ストラトス! 昨夜の下半身も正直だったが正直すぎるのも考えものだ。 「いつもの格好にする」 そう言って踵を返しかけた刹那を引き留める。 「いや、ちょっと待て。買い物に行こう」 いかにもお嬢様な格好よりカジュアルでボーイッシュな格好の方が似合うに違いない。 隣には現地集合と伝え、店の開く時間を見計らって街へと出る。 ショーウインドーの人形が着る服を見本にイメージに合う店を探し扉を開けた。 「あの服をこの子に着せてやってくれ」 突然の申し出にも動揺する事なく刹那を試着室へと案内する店員。 これで少しはマシになるだろう。 店内を見渡し他に刹那に似合うものがないか物色しながら試着が終わるのを待つ。 まるで妹を待つように安穏としていたが、刹那が試着室からその姿を現した時、その変貌ぶりに息を飲んだ。 「ロックオン…?」 少しはマシになるだろうなんて先見の明が無さすぎる。少しどころではない刹那がそこにいた。 年甲斐もなく刹那の姿に見惚れ、胸が高鳴るのを自覚していた。 センスがないので刹那の格好は想像にお任せします。思うように絵が描ければそれでイメージを掴めるんでしょうが。基本自分が仕事着とパジャマのループなんでおしゃれとは無縁ですorz |