垣間見たのは君の涙
デリケートな年頃だったかとロックオンも過去を振り返る。 さて刹那がどこに行ったかと思案していると当の本人がこちらに向かってくるではないか。 視線がまっすぐこちらに向いていて、互いに用があるのだと察したロックオンは自身を落ち着かせるように息を吸う。 「……悪かったよ」 悪気はなかったと言うより早く刹那が一気に言葉をつむぐ。 「俺は、知らないから期待するな」 褐色の肌では分かりにくいが刹那の頬がほんのりと赤い。今までの恋愛経験からするとこのパターンには覚えがあった。 「そ、それって…」 さらに刹那の表情が艶を増す。普段はポーカーフェイスなだけに新鮮だ。 「き、期待外れでも文句を言うなって事だ。その代わり、クルジスでは初めての相手が一生の相手となる。死んでもだ。他に身体を許す事は死を意味する」 「え?」 そうか。だから刹那はあんなにも怒ったのかと改めて認識したロックオンである。 性に対する倫理観がこんなにも違う事に驚き、あんな話をふった事を反省し口を閉ざすロックオンに、刹那は嫌悪感をあらわにした顔を見せた。 「知らなかったのか?」 刹那の育った土地の慣習を知らなかったロックオンはただ反省するしかなかった。悪い事を言ったのだから言い訳も出来ず黙っていると刹那の声が荒げられる。 「初めから遊びのつもりだったのか? 軽い覚悟だな!」 先程からの会話と刹那の表情から一瞬にして意図するところが見えてくる。 つまり、遊びでなければ良いとも読み取れるではないか。 「バカっ!」 「痛っ」 爆発した刹那の感情は攻撃としてロックオンへと向けられる。 突然に膝を蹴られロックオンは踞っていた。視界の端には走り去る刹那。 「か、からかわれたのか?」 刹那にどんな心境の変化があったのか。 ほんの数分だったのにロックオンの思考は状況把握するだけでいっぱいだった。 あの様子はまさしく恋人として認め、触れる事を許すような意味にも取れたのだが、問題はあの刹那だ。 宗教上のものもあるだろうし受け入れるような事はするまい。 ではどうして? まさか試されているのか? 疑問はあったがここは追いかけるべきだとロックオンは痛みを堪えて立ち上がった。 行き先ならあそこしか考えられなかった。 |