Heaven's Gate 〜天国の門〜 1



 『俺はこのまま何もなしえないまま朽ち果てるのか?』

 安穏たる生活は初めから手に入るものではなかった。それはよく解っている。
 人生はとうの昔に狂ってしまっていて、今になれば諦めもある。
 人生を軌道修正をする気持ちも術すらもない。
 それよりも。今、CBとして為さなければならないことが何か熟知していたし、蔑ろになどするつもりもなかった。
 むしろ最優先事項と位置付けている。


 ただ、何も行動しないのだけは自分の心を裏切るようで苦しかったのだ。
 想いは日々膨らんでいくのに心は空虚で満たされない。
 恋というものがこんなに苦しいなら知らなければ良かったと思えるほどに。
 けれども、刹那・F・セイエイとしてロックオン・ストラトスに想いを告げるつもりはなかった。また気持ちを抑える自信もあった。
 今まで仲間として良好な関係を築いてきたし、彼とは信頼しあえる大切な仲間だ。
 その関係を壊すようなまねをしたくない。
 だから今のままで充分だと思ってきた。
 第一にロックオンにとって自分は手の焼ける弟分のようなものでそれ以上でもそれ以下でもないはずなのだ。
 女だという事すら認識されていないと確信がある。
 女とばれないようにしている行動も彼の目からすれば子供の勝手な行動と思われているはずだ。
 最近まではそれで良いと思っていた。
 女である事の不利を己にも他者にも強いたくなかったから隠し続けたのだ。


 なのに、たった一つの出来事が心を揺らす。
 他愛ないあの一言が無ければ一生このままだったろう。
 同じ仲間がロックオンの行動について羨望混じりに噂したのだ。
 『地上で遊んでくれる女の子がいるなんてさすがロックオンだよ。狙い撃つのに女の子も含まれてんだな。音声のみの応答だなんてさぁ、何してたんだか』
 下世話な想像で揶揄するリヒテンダールに羨ましいよなと同意を求められても何も返せなかった。
 心が痛くて言葉が出てこない。
 ロックオンが女と一緒だと考えるだけで胃のあたりが重かった。同時に痛む胸。切り裂かれそうとはまさにこの事だろう。


 想いを告げるつもりはないと覚悟していたのに、ロックオンの隣に自分の居場所がない事を実感しただけで身を焼かれる思いがするなんて。


 行動に移すなんて考えた事もなかったのに。
 許されないと解っていたのに。



 心が砕けてしまいそうだった。











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