あの日の分岐点




 待ちわびた瞬間がやっとくる。ファーストミッションはもうすぐだ。
 適切な時期を考えるのは頭の仕事で自分達手足が焦る必要はない。せいぜい何時でも動けるように、バネのごとく待機していれば良い。
 だけれども、知らず心は逸るものなのか。
 すでに地上に移って一週間。
 効果的な式典がほぼ同時期にあるのは経済界からの圧力でもあるが実行部隊である手足には意図など預かり知らぬ事である。
 ただ秒読み段階なのは把握していた。
 徐々に高揚する気分。
「失敗は許されない」
 刹那は己れに刻みこむつもりで言葉にする。
「死ぬ事も、な」
 作戦上一緒に潜伏しているロックオンがまるでおまけのように付け加えた。
 例え成功してもマイスターである自分達が一人でも欠ける事はミクロは勿論のことマクロ的な意味でも作戦に支障が出ると言いたいのだろう。
「死ぬつもりはないが、死んでも良い」
 俺が居なくなっても代替えはある。所詮パーツの一部だと断定した刹那にロックオンは悲しげに眉をしかめた。
 マイスターとなって世界から戦争をなくそうと、動機はそれぞれでも目的は同じだ。
 出来るなら最後に笑っていたいと、楽天的と知りつつもロックオンは思うのだ。
 仲間内でも一番幼い刹那の命まで捧げなければ世界は変わらないのだとすれば、そんな世界は不要だと言ってしまえるほどの思想を持つ訳でもなく。
 ただ、この目の前の少年を失いたくなくてロックオンは唇を重ねていた。
「これで少しは生きて帰る気になったか?」
 少年の中にどんな理由が生まれたか。愛憎どちらかといえば前者であってほしいが、睨む赤い瞳には怒りが満ちていた。
「そんなに死にたいなら今すぐ殺してやろう」
 刹那が殴りかかっても、そこは体格差か、ロックオンに易々とかわされる。
 ほんの少しだけ悔しげに寄せられた眉も次には年に似合わぬ冷静さを作る。
「その顔に青あざを作れるぐらいまでは生きてやる」
 彼と遜色なく育つまではまだ年単位で時間が掛かる事だろう。
 必ず生きて帰る。
 そんな約束は無意味だと刹那は嫌というほど知っている……。








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