あなたが私を変えていく





 第三者の立場として、彼らの関係が徐々に変化しつつあるとアレルヤは感じている。
 特にロックオンだ。彼が刹那という子供の世話をしていたはずなのに、いつの間にかその視線に特別な感情が宿っていた。
 だが刹那にはまだ早いのか歯牙にもかけていないのが解る。
 それなのに。
 つまり。振られていると断言できるのにロックオンはしつこく刹那を構っている。
 懲りないな、と見ているが彼は年長者のくせに刹那に対しては墓穴も多い。
 だから今ここで彼は落ち込んでいるのだが。
 先程のニュースもそうだ。
 反応しなければ良いのに。刹那に話を振るのはどう考えても間違いだろう。刹那はまだまだ子供で思春期真っ只中なのだから。



 性感染症低年齢化のニュース。
「刹那も経験あるんだろう? 気を付けるんだぞ」
 ゴムはちゃんと持っておけ。なんて父親めいた台詞。おそらく、大人の余裕を見せたかったのだろうが、それが刹那の逆鱗に触れたらしい。
 ロックオンの知る世界と刹那の世界は当然違うのに、16なんだから経験があって当たり前だろうという感覚は完全なる想像力の欠如と言えよう。
 訓練中でも誘う女がいるロックオンと刹那は違う。
 顔を真っ赤にして怒る刹那。彼もまた誤解しているのが解る。
「どうせクルジスの親の顔すら分からない孤児上がりだと思っているんだな」
 刹那の年の割りに低い声は怒りに震えている。



 刹那自身もロックオンの戯言など軽く流せば良いと解っていた。
 だが最近のロックオンの不可解な態度もあって流せなかったのだ。
 確かに、食べるために身体を代償にするのはよくある事だった。一番安易な方法だ。
 だが戒律で禁じられているのもまた事実で、CBに拾われるまで刹那は神の子として清く生きてきた。(銃を持ち不信仰者を駆逐するのはとても尊いことだと教えられてきた。)
 もっとも、仲間をすべて奪われて神の存在など否定したが、CBに入ってもガンダムに乗るために訓練に明け暮れていたので色恋などに寄り道などしなかった。
 ロックオンの無神経な言葉が癪に障るのは、『自分のことを理解している』と刹那が思っていたからだ。
 知らないくせに好きだとほざくなんて。馬鹿馬鹿しい。



「何を怒るんだ? さてはまだチェリーちゃんだったか?」
 ロックオンの言葉にアレルヤの方が驚いた。
 逆撫でとはまさにこの事だ。ここで、『ほら一つやるよ』なんて避妊具を出さなかっただけ合格か。
「俺は誰にも触れさせるつもりはない! ロックオン、特にお前にはな!」



 以上が先程アレルヤの前で繰り広げられた痴話喧嘩だ。正確には痴話喧嘩ではないがアレルヤにとってはそう評価するに足りた。
「図星すぎて怒らせたかな」
 そんな雰囲気ではなかったが、もう何も言わないでおこうとアレルヤは宙を仰いだのだった。



 最近のロックオンは理解不能だった。突然のキスは冗談にしても、明らかに以前と態度が違う。
『お前が好きだから一緒にいたい』
 甘い言葉と、そんな目で見るなと言いたくなる熱を帯びた視線。
 さっきだって、ただのニュースのはずなのに、ロックオンの視線は別の意味を含ませているようだった。
 言葉の内に秘めている意味。
 まるで、男同士の経験があるなら平気だろう? カマトトぶるなよと聞こえたのだ。それはあながち間違いではないだろう。あの絡みつくような視線は正直だ。
 キス以上の事を示唆されて気持ちが悪い。それとも自分が子供すぎるのか?
 どちらだろうと、ロックオンのように気楽な関係を望む男に自分をさらけ出してたまるかと刹那は唇を噛む。
 けれども、心の奥底の声が聞こえてきて、それが一番刹那を苛立たせる。
 彼が真剣なら? ずっとそばにいるなら?
 それなら良いと思ってしまいそうになる身体の奥に発生したもう一つの感情。

 刹那は徐々に変わっていく自分が怖かった。





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