トリコさんに背負われたまま飛び降りたスカイプラント。途中の落下スピードに追いつけずボクの手はトリコさんを離してしまう。
あっという間に離れていくであろうと思った身体はトリコさんに捕まれて、気がつけばボクはトリコさんの腕の中にいた。
「もう大丈夫だぜ」
目の前のトリコさんを直視できなくて視線を逸らす。腕の中だなんてそんな、まるで夢の続きみたいで照れくさかった。
そっと下ろされる動作さえも優しくて言葉が詰まる。
「さぁ小松、これから親父んとこ行くぜ。きっと喜ぶぞ」
トリコさんのいう親父とはIGO会長の事で、とっさに自分の格好を思い出す。
「こんな格好じゃ行けませんよっっ、相手は会長ですよっ」
「気にしねぇよ」
ただのファンキーな親父だよとトリコさんは言うがボクにしてみれば雲の上の人だ。
なんだかんだと理由をつけてトリコさんだけで行ってもらおうとしたが、その作戦は失敗に終わった。
「一緒に行かねーと意味ねーんだって。あーめんどくせぇ。スーツ買ってやる。それなら良いだろ」
トリコさんがどこかに電話して、IGO本部にマッハヘリが到着する頃には当然のようにボクようのスーツが出来上がっていた。
普通は無理な事だ。トリコさんが言えばそれなりに無理がきくのはやはりトリコさんがカリスマたる所以だ。
緊張のまま会長に挨拶を済ませてさぁ帰ろうかと思った瞬間、会長から人の良い笑みを向けられた。
「今夜は泊まっていくじゃろ」
「わりぃな親父。うまい飯頼むぜ」
ボクが断ろうと思った時にはすでにトリコさんがお礼を言ったあとだったので、ら意図せず一泊させてもらう事となってしまう。
スーツと一緒に普段着なんかも適当に用意されていて、何一つ不自由はないけれど、なんか釈然としない。
ボクとは対照的にトリコさんはご機嫌だった。
「親父にいいパートナーだって誉められた」
トリコさんがどっかりとソファに座る。
用意された部屋はいわゆるスイートルーム的な部屋だ。寝室と居間が別れていて簡易キッチンまである。
「あの、ボク達どうして同じ部屋なんでしょうか、ね?」
さっき見た寝室は辛うじてベッドが二つだったけれど明らかにトリコさんサイズになっている。もう片方は普通のサイズだったからボク達二人のために用意されたものだ。
「コンビだからじゃね?」
単純にトリコさんは答えてくれるがコンビだからと片付けるには少し早計ではないだろうか。
ボクはよほど難しい顔をしていたらしい。
「あのよ、小松。微妙にオレの事警戒してねぇ?」
訝しむようなトリコさんの視線にボクは申し訳なくなってくる。
最近のボクはずっとトリコさんを警戒した態度をとり続けていた事だろう。申し訳がなさすぎてうなだれてしまう。
そうだ! ここであっさり打ち明けて、心の重荷を降ろしてしまえば良いではないか! やましい気持ちがあるからこそ、態度にも出ているに違いない。
ボクは深々と頭を下げた。
「すみません、トリコさん。実は夢に出てくるトリコさんがボクに告白してきたり、他にも……なもんで、現実にはあり得ないと解ってるんですけどちょっと衝撃が強くて……。あはははは」
意味不明かもしれないけれどなんとか言葉にしてしまえば心も軽くなった。
そこで、なんだよ小松。勝手に夢の中に出すなよ。なんて軽口があるかと思いきや、トリコさんが顔を真っ赤にして逸らすではないか。
「……オレの態度……。夢に出るほどあからさまだったか?」
衝撃の告白だった。
「えっ、それってトリコさん……」
「オレ、小松の事……。本当は今夜も同じ部屋にしてもらったんだよ」
「ええええっっっ」
これって、これって!!
ボクと同じ部屋になりたいぐらいには好きって事ですよね?
「なぁ小松。オレがお前に告白したら嫌いになるか?」
そこにいたのは夢と同じ眼差しのトリコさんだった。
「トリコさんを嫌いになんて……」
尊敬している。他にどんなに優れた美食屋が居たとしてもトリコさんとともに成長していきたい。
そして……。トリコさんと公私ともにパートナーになりたいとボクは思ってしまったのだ。
「これでも、嫌いにならねぇか?」
触れるだけの可愛いキス。現実のキスは少し葉巻樹の匂いがした。
「夢の中のトリコさんはもっと大胆でしたよ」
「へぇ。どんな風に大胆だったんだよ」
ボクの挑発にトリコさんの目がギラリと光る。補食者の顔をしたトリコさんから逃れる気はしなかった。
「ボクを抱きしめてですねぇ……。ここからはトリコさんが実践してみせてください」
覚悟しろよ。そう呟いたトリコさんの言葉は深いキスと重なって……。
あとには夢の中でのボク達が存在した。
ボクはトリコさんのパートナーとなって……。
そしてもう夢に悩まされる事はない。
(終わり)
トリコさん誕生日記念!!! 久々の短編でした。ぎりぎりお誕生月に更新できて満足!!! お付き合いありがとうございました!!!
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