夢で会えたら 2




 夢の続きを見たなんて話は今まで聞いた事はない。しかしこれは確実に昨日の夢の続きだった。
 ボクはこれを夢だと自覚しているというのに、夢から覚めるそぶりはない。
 トリコさんの唇がボクからゆっくりと離れ、ボクがにぎゃああぁぁぁと叫んだその次の瞬間から始まる夢。
「なんだよ、もっとおしとやかに叫べって」
 それでもトリコさんはボクに嫌な顔一つせずむしろ幸せそうな笑みを浮かべている。
 妙に恥ずかしくなって視線を逸らせば、上半身だけ裸だと思っていたトリコさんが実は下まで裸だという事実を知る事となる。
「っ……えっ?……」
 夢の中だけれどもボクはもう少しで卒倒するところだった。
 裸なんて見慣れているはずなのに、盛り上がった大腿の筋肉や引き締まった腰が視界に入るのは妙に照れくさい。肝心なところはモザイクだったので助かった。
 これが夢で良かったと胸をなで下ろしたが、夢の中のトリコさんはどうやらボクの意識の支配下にはなかった。
 ずいっとボクへと迫るトリコさん。
「あ、あのトリコさんっっ」
 ボクのシャツの襟元に指を引っかけるようにするので、服が悲鳴を上げていた。
「お前も脱げよ。小松の全部が見たいんだよ」
「こ、こんな貧相な身体を?」
 どうして? と思うことなくボタンが弾け飛んでいた。少し力を込めただけでボタンの糸が切れるなんてどれだけバカ力ですか。
 トリコさんが自身の上唇をぺろりと舐める。
「あぁ。オレにしちゃあとんでもねぇ色香だぜ?」
 ボクにしてみればトリコさんこそ性的に色香が半端じゃない。トリコさんのこんな顔は見たことがなくてボクは戸惑うしかなかった。
 さらにずいっと迫られたところで目が覚めた。まさか夢がエスカレートしていく話って事?
 とてつもない罪悪感だった。
 トリコさんに申し訳なくて起きてからも溜息が漏れる。勝手にボクの夢に出演させて……、それもあんな夢だなんて。
 夢なのだからボクの願望が反映してるのだろうか。勝手にあんな事をさせてしまってトリコさんに合わせる顔がない。
 思い出して、ぞわりと体中が泡立つ。あのままではもうすぐボクはトリコさんのものになってしまう。
 夢の中のトリコさんはとても幸せそうで、恐ろしいことに夢の中のボクは戸惑いながらもトリコさんを受け入れていた。
 そりゃあ、ボクだってトリコさんは好きだ。
 憧れの美食屋で、いつかはボクの料理を食べてもらいたいとは思っていた。
 雲の上の人物だったからまさか一緒にハントに同行できるような関係になるとは思いもしなかったけれど。
 センチュリースープ完成の原動力になったのはトリコさんの言葉だったし、スープを守りきれなかったボクを責めるではなく、最後のたった一口をボクに飲ませてくれた。
 優しいあの一言でどれだけ救われただろう。だからボクは頑張れたのだ。
 それを好意と勘違いしているなら恥ずかしい事だ。
 少しの間だけでもトリコさんを避けてみよう。雑誌も見ないようにして仕事だけに集中してしまえばいい。

 きっと夢は見なくなるだろうから。





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