いつになく低く囁くような声でトリコさんがボクを手招きするのはベッドからだ。
「さぁこっちこいよ」
トリコさんが上の服を脱ぐ。ベッドに腰をかけるトリコさんの誘いにボクは動けない。
まさか。それって。
「ど、どうして服…ぬ、脱ぐんですか」
しどろもどろの問いだったが、トリコさんには通じたらしい。
これからエッチすんのに邪魔じゃね?
とか言われたらどうしよう! ボク、断れないかもしれない!
強引なようでそうでないトリコさんに、ボクは拒絶する言葉を持っていなかった。
どうしようどうしようどうしよう。
パニックであわあわしているとトリコさんは頭をガシガシとかきつつ。
「あー、家ではいっつも脱いでるかもなぁ」
と、あっさりと答えたのだ。
正直がっくりした。
ってなんだよボク! がっくりってまるで期待してたみたいじゃないか!
気を取り直してベッドへと歩み寄る。
「お、邪魔します」
なんて大きいベッドだろう。普通なら3人ぐらいは眠れそうだ。
着替えはなかったのでトリコさんのシャツを貸してもらったけれど勿論ぶかぶかで。肩なんか半分以上脱げている。
「いー眺めだな」
サイズの違いを実感していると、トリコさんににやりと笑われた。
それも女の子に言うなら解るがボクは男なのだ。
いちいちツッコむのも疲れるのでボクは黙ってトリコさんの横に忍び込む。
広いベッドは特注で菓子で出来ている。綿菓子の木から取れる掛布団は超高級品だ。
寝そべるトリコさんの横に寝転がると足元がすうすうした。トリコさんのシャツは膝上まであるけれどどうにも落ち着かない。
どれぐらいの時間が経過したのか。あまりの緊張で気がつかなかったがいつのまにかトリコさんは眠ってしまっていた。
「ボクばかり馬鹿みたいだ」
ため息のような深い息を吐いて力を抜く。
ボクも寝ようとトリコさんに背を向ける。
ハントの時ならいつも一緒に寝ているというのに。今日に限ってどうしたことだろう。緊張してなかなか寝付けない。
色々考えているうちに、
『なぁオカズ何?』
突然の質問を思い出す。
昨夜は何だったのか、トリコさんに手を舐められた記憶が強すぎて思い出せない。確か雑誌のグラビアだった気がするが…。
そういうトリコさんも一人でするんだろうか?
相手に困らなさそうだから一人で処理する事もないだろう。リンさんもトリコさんを好きらしいし。
眠れないでいると突然背後から抱きしめられる。
「なぁ小松、食べていいか?」
こんな密着して、意味深にも取れる台詞に胸が高鳴る。
だけど誤解しちゃいけない。
「……寝る前にあれだけ食べたのに」
朝まで我慢しなさいと言えばトリコさんは苦笑する。
「小松ってば冷てぇなぁ。ホントは解ってんだろ?」
答えを待つトリコさんにわざと黙秘すれば再び声がかかる。
「なぁ食べていいんだろ」
ここで是と答えれば何が起こるだろう。
だから答えずに寝たふりをしてみせれば、トリコさんはくつくつと笑う。
「答えねぇなら勝手にオカズにするぜ?」
ちょ、ちょっとソレって!
トリコさんの荒くて熱を孕む吐息が鼓膜を刺激する。
「はぁ…、う……、小松ぅ、たまんねぇぜ」
首筋にかかる熱い吐息、振動が伝わる腰。
本当にトリコさんがボクをネタにして自慰をしているんだ……。
ボクも大概変になっちゃった自覚はあるけど、トリコさんはもっと変になった!
だってボクがオカズっておかしいでしょ!
「なぁ小松ぅ、出していいか?」
もしかして起きているの知ってるのかもしれない。
ボクが小さく頷くとトリコさんの息が詰まり、背中に生暖かい感覚。
かけられたのだと一瞬にして悟り、凄まじい背徳感が身体を支配する。
「なぁそれ脱げよ。着てられないだろ」
背中だけでなく下着にまでかけたらしく、トリコさんの手がパンツを下げようと動く。
いくらなんでも、トリコさんの真意が伝わる。
計画的に違いない行為。
でもそれが嫌じゃないなんて……。
ボクは生まれたままの姿にされて、そしてトリコさんにキスをされた。
妙にしっくりくる行為に、ボクはトリコさんとのキスを望んでいたのだと思い知る。
この身を焦がす程の渇望。ボクはトリコさんの太陽のような笑顔を手に入れたかったのかもしれない。
「トリコさん、ボク……」
続く言葉は再び唇によって塞がれたのだった。
『やっと手に入れた』
微妙につづいたシリーズですが、この辺りで完結ということで。お付き合いありがとうございました〜
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