目の前の旧友が、テーブルの上の食材を品無く食べ尽くすのをココは半ば飽きれながら見つめていた。
食べながら口を開くもんだから同席するのは勘弁してもらいたかったのが本音だ。せっかくの料理がまずくなる。
「いやーホントに参った。食いちぎられるかと思ったぜ。あんな捕獲レベルが高いなんて誰が想像するよ」
どうやらハントの話らしい。
「珍しいな。トリコが苦戦するなんて」
「ずっと狙ってたんだけどよ、タイミングがなぁ。やっぱ流石に良くなかったみたいでよ」
捕獲する時期によって味に差があるのはよくある事だ。
「散々逃げ回るし、うるせぇし。でも味は最高でよ、ちょっと味見のつもりが、つい最後まで食っちまったぜ」
饒舌になっているトリコの話を総合するとつまり満足したのだろう。
「で、何をハントしたんだ?」
タイミングが悪かったにも係わらず、最高に美味しい食材が何だったのか単純に興味があって聞いてみれば。
トリコは待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、
「あぁ? 小松に決まってんだろ〜。あいつ、結構いいケツしてるわ」
絞まりが良くってたまんねぇぜ。と、爆弾発言をしたのだ。
にやけるトリコにココは衝撃のあまり瞬きすら忘れてしまう。
『まさか小松くんが?ハントされた?食いちぎられるって何が?』
勿論ナニであるのだが、ココの理性はそこで考える事を放棄してしまっていた。
「ちょっと! トリコさん! 何の話をしてるんですか!」
それにここをどこだと思ってるんですか! そう言いながら厨房の奥から現れた小松をトリコは抱きしめる。
「小松とのナニの話に決まってんだろ〜」
場所はホテルグルメ最上階の展望レストランで、皆が聞いていると指摘したかったが恥ずかしさからか小松の口はうまく回らない。
「ココが毎月食べに来てると知っちゃあ、会いたくなるのが旧友ってモンだろ。いや〜有意義な時間だったぜ?」
笑った凶悪なまでの顔が、自分を牽制しているのだとココが知るには十分すぎた。
目の前の、食べる事しか知らないと思っていた旧友に、まさかひた隠しにしていた気持ちを知られていようとは。
「そんなに美味しいならボクも是非食べたいな」
にっこりと笑って返せばトリコが苦虫をかみつぶした顔を見せた。
それはライバル宣言。
『そんなちゃちな牽制如きで怯むボクじゃないからね』
「もうっっ、ココさんの前であんな事言うなんてっ」
「…オレは単純にお前とコンビも組めたし、恋人になったのが嬉しかったんだがな」
「トリコさん…」
意外と独占欲の強い大男は、ほんのちょっぴり悲しそうな表情を見せた。
その表情に小松が弱いと知っているかのようだ。
いつもは底抜けに明るいトリコが昨夜、
『お前無しの人生なんて考えられねぇ、だから…』
そう言って迫ってきて、小松が結局身体を許してしまったのは、トリコの哀愁ただよう表情を見てしまったからだ。
「なぁ、オレの事捨てねぇよな」
大型犬が耳を伏せて尻尾を巻いて小さくなっているような、そんな光景に小松は思わずトリコに抱きつく。
「心配しなくてもトリコさんだけですよ」
こんなに求められて拒めるはずがないじゃないかと、小松は自分の行動を正当化して・・・。
そして勝利者宣言。
『これでココより一歩以上リードしたな』
トリコマ←ココ
どうしても、ココって報われない感じですね。
NOVEL TOP