最近のトリコさんは変だ。
ガシッとボクの手首を掴んだかと思うと掌に鼻をくっつけて、まるでテリーのように匂いを嗅ぎはじめたのだ。
料理に取り掛かろうと思った矢先の事だったので不意の出来事にボクは『ギャー』と飛び上がる。
おまけにトリコさんは匂いを嗅ぐだけでなくボクの掌をペロリと舐めるではないか。
「手、舐めないでくださいよ!せっかく洗ったのに!!!」
「だってよ、美味そうな匂いしてるから仕方ねぇだろ」
「仕方なくありません!」
ボクの抗議など意に介せず、なおもトリコさんは掌を舐めた挙げ句、中指を口に含んだのだ。
途端に背筋に走った疼き。敏感に受け止めてしまった感覚がシナプスを伝って駆け巡る。
「ト・ト・ト…」
「なんだ?感じたのか?」
ニヤリと人の悪い笑みでトリコさんはボクを見つめる。
「もう!バカ言わないでくださいよ!」
手を引っ込めれば簡単に拘束が解けてしまい、それを少し残念に思ってしまったボクの感情は、きっと顔に出てしまっていただろう。
最近のトリコさんは変だけれど、ボクはもっと変だ。
「ど、どれだけお腹空いてるんですか。これから料理作りますから、ボクの指を食べないでくださいよ!」
「腹減ってんだから早くな」
慌てて背を向けてキッチンに逃げる。
ひらひらを手を振ったトリコさんの表情を見てしまっていたら、きっと動けなかったに違いない。
雄弁に語るその表情を。
『お前に飢えてるんだから早く気付け』
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