孤独な太陽



 食事が終わって30分もしないころ、テリーがボクの目の前に大きな豚を差し出して、その賢そうな瞳でじっと見つめてきた。
「小松へのプレゼントらしいぞ」
「えっ、そうなの?」
 トリコさんの通訳にテリーも異論はないらしく、さらに豚を押し付けてくる。
「今すぐ食べろってよ」
 確かに今食べる方が美味しいだろう。
 トリコさんに殆ど食べられてボクは空腹だったし、トリコさんもまだ食べそうだ。
 調理して食べるのは大歓迎だが、しかしそれでは確実に交通手段がなくなってしまう。
 仕方ない、タクシーだな。とボクは諦めて、
「じゃあ、美味しく調理しましょう!」
 腕を捲ればテリーが嬉しそうに吠えた。


 そして、確実に2時間は過ぎて、ほんの5分前に最終電車が終わってしまったところだった。
 タクシーだってあまり遅くなると呼ぶのも申し訳ない。
「そろそろ帰りますね」
 片付けも終わってしまえば手持ち無沙汰だ。
「あぁ? もう電車ないぜ、泊まってけよ」
「タクシー呼びますよ」
 腰を上げると、テリーが板チョコの玄関の戸を塞いでいる。
「門番のつもりらしくてな」
 笑っているトリコさんが憎らしい。
 狙っていたとは思わないが、ボクがいれば明日の朝も美味しい料理が食えると喜んでいるのを見るとあながち間違ってなさそうだ。
 仕方がない。部屋の片隅でも寝るだけなら十分だ。
「さあ次はデザートだな」
 そう言ってソファーで寝そべっているトリコさんにもきっと悪気はないだろうし。リビングでもどこでも眠れる自信はあった。
 そんなボクに向って、
「なぁ、こっちにこいよ小松」
 落ち着いた低い声で誘われ無意識に心臓が大きく跳ねた。
 いつもの脳天気なまでの明るさではなく。ハントの時のような獲物を狙うような……。

『デザートってまさかまさかボク!?』

 あわあわとしていると、トリコさんがボクの身体を引いたので、計らずともトリコさんの身体の上に倒れ込むような形になる。
 なんて恥ずかしい体勢だ。
 引いたトリコさんも驚いた顔をしている。きっとこんなに簡単に体勢を崩すとは思ってもいなっかったに違いない。
 トリコさんの足の間にすっぽりと収まった身体。辛うじて手で支えたものの絵面は最悪だ。
「なんだ小松、大胆だな」
 ニヤリと笑われ顔が赤くなる。
「ほらよ、デザート」
 唐突にポッキーのような菓子を口に入れられた。両手は自分の身体を支えているので仕方ない、不可抗力だ。
 口いっぱいの菓子に涙目になっていると、トリコさんは舌なめずりをして、
「や〜らし」
 と、からかうので、渾身の力で菓子を噛み切った。
 女の子にして楽しむなら解るが、残念ながらボクは男なのだ。
「バカでしょ!」
 人を揶揄うのもいい加減にしてください!そう叫べば難無く解放してくれたが、はっきり言って泣きたかった。
 この時のボクはごまかしようがなく、トリコさんに欲情していたからだ。
 こんなのは変だ。絶対におかしい! そして、これは全部トリコさんのせいだ!
 バクバクと過剰な血液を供給する心臓に静まれと命令して。


 ふと、トリコさんの様子をみればボクの様子など気になどしてなさそうに手当たり次第甘いものを食べている。
 ボクだけが変なのか。変に意識しすぎているのだろうか。
「さぁ、そろそろ寝ようぜ」
 立ち上がったトリコさんに、
「じゃあリビングお借りします」
 と、頭を下げれば不機嫌な声が降ってくる。
「オレの部屋で不都合が?」
「ありますよ! こんなに部屋があるのに! わざわざどうして?」
「ハントの時は一緒じゃねぇか」
 確かにハントの時は身を寄せ合って眠るけれど。
「そりゃ屋外ですからね。ここは家の中ですし、こんなに広いのにどうして」
 理詰めで説明すればトリコさんは口を尖らせる。
「次は小さい家にする」
 っていうかテントでいいや。と、トリコさんがいじけているのでボクは渋々重い腰を上げる。


 どうしてそこまでしてボクと一緒にいたいのか。疑問はたくさんあるけれど、こんなに大きな身体をしたトリコさんだって、きっと人恋しい日もあるに違いない。
 詳しい過去は知らないけれど男は黙して語らないものだし、根掘り葉掘り聞く趣味もない。
 だから手招きするトリコさんにボクは逆らえないのだった。


 
『捕ま〜えた』





ポッキーの日に合わせてみました。元ネタになったイラストは言わずもがなですが、見た瞬間背中のファスナーが破れてケモノが飛びでそうでした。それはそれは萌えが詰まった素敵なイラストでケモノが大暴れです。で、ついネタが降ってきたというそんなオチです。








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