キミはきっと知っている




 四天王一の食いしん坊でもあるトリコの来訪があると占いに出てココは頭を悩ませた。
 彼が来るとなると間違いなく食料庫が空になるからだが、もてなさないという選択肢はココにはなく、いそいそと料理の準備をしていると、遠ざかるキッスの羽音が聞こえた。対岸にトリコの姿を見かけたのだろう。
 暫くして、キッスに乗ったトリコがやってきて、挨拶もそこそこにダイニングテーブルに腰掛けるとココにも座るように促した。まるで家主のような横柄さである。
 そして真顔でもってココに詰め寄ったかと思うと、
「オレってば母性本能ってやつに目覚めたらしい」
 などと一瞬耳を疑うような発言をしたのだ。
 トリコの言葉にココはこめかみに手をやった。まったく……昔から問題児だったが、今でも充分に問題児だ。
「はぁ……。トリコは頭の中まで筋肉で出来てるらしいね」
「だってよ、小松って小さくって可愛いだろ。ずっと抱っこしてたい気分になるんだよなぁ。腕の中に閉じこめてよ、ずっとずっと大事にしてたいっていうか」
 そんなトリコの言葉にココは呆れるしかなかった。
(バカかこの男は?)
 それは恋というものだ、なんて言葉は言わない。
 何故ならそれは自分で気付かなければならないからだ。
「コンビを組んだパートナーなんだから当たり前だろ」
「そうか。そうだよな」
 にこっと、幼い頃よりは男臭くなった笑顔で礼を言うとトリコは予想通りに食料を食い荒らしてココの家を去っていった。


 そして約一週間後の同じシチュエーション。
「なぁココ。オレは外道に成り下がった!!!」
「今度はどうしたんだい」
 さめざめと嘆くトリコに流石のココも動揺する。が、それも一瞬だけ。
「小松に対してセックスしたい欲望が消えねぇんだよ」
「……」
「名前呼ばれるだけでドキドキするし、密着されると股間が反応して勃起するんだ」
「……」
「よりによって小松だぜ。コンビを組んで、助け合い尊敬すべき相手を押し倒したいってオレは……」
 突っ伏して「オレはダメな男だっ」とか叫ぶトリコは本物のバカに違いない。
 この男はまだ気付かないのか?
 バカに付ける薬はないけれど助言ぐらいはしてやろうとココは誰もが見惚れる笑顔を作る。
「じゃあ直観のままに押し倒してみれば?」
「出来るかっ!!!」
 ドンッと机を殴ったので机が真っ二つに割れたがまぁ大目に見てやろう。
 直観といえば、サンサングラミーをハントしにいってから、散々直観などとほざくようになったじゃないか。
「なぁトリコ。今度こそお前の直観を頼るべきじゃないのか?」
「それって占いか?」
「まさか。直観ってやつだよ」


『占わなくても解るっていえば満足するかい?』


 きっともうすぐトリコは気付くだろう……。自分が唯一の存在に出会ってしまっているということに。








NOVEL TOP






TOP