キミをハント2




  人工の明かりが一切届かない辺境の地で、周囲はもう薄暗い。
 トリコと二人きり、今夜は野営となるだろう。ハントに行けばよくある状況だから小松に戸惑いはなかった。
 しかし今の状況はさすがに戸惑わざるを得ない。
 怖ず怖ずと小松は天に向かってそそり立つようなソレに口を寄せる。躊躇しない訳ではなかったが、トリコに促され決心がついての行動だ。
 熱に浮されたかのように身体が熱いのは興奮からだろう。
 長大を誇るソレを小松は今までの見た事がない。草叢を撫で付けるようにして、その形を現わにした小松の手が止まる。
「…小松」
 トリコが小松の名を呼ぶ。
「えへへ、やっぱり緊張しますね」
 何しろ初めてなのだ。
「仕方ねぇよ、誰だって初めては緊張するだろ」
 慰めるようなトリコの口調に小松もホッと緊張を緩める。失敗したらどうしようかと、トリコを幻滅させたらどうしようかとの気負いが消えた。
 ゆっくりと恭しくくちづけし、小松がソレを舐めれば、ビクンッと手の中で震えるかのようだ。
「大きいですね、トリコさん」
「あぁ…」
 歯で傷つける事がないよう大きく口を開けて出来るだけ根本まで含む。舌で押せば堅い弾力が返ってきた。
「上出来だ、小松」
 トリコも緊張しているのだろう上擦った声が小松の耳に届く。
「うっ、ぐっ」
 口いっぱいに主張するソレに小松は返事出来なかったが『おいしい』とでも言いたかったのだろう。
「悪ぃ小松! さすがのオレも限界だっ!」
 血走った眼でトリコが立ち上がると……。




 うぉぉぉーと雄叫びとともに、トリコが森の中へと走り消えていく。
「ん? なんだ、やっぱりトリコさんも食べたかったんですね」
 草叢の中にたった一本だけ生えていた茸に、トリコよりも先に口を付けた小松が顔を上げる。
 そしてもぐもぐとくわえていた茸を咀嚼し飲み込んだ小松は森に消えたトリコの背を見送った。
「あー、やっぱりうまいなぁ」
 松茸のようなその形の茸は特殊調理素材の一つで、地面に生えたままの状態でないと途端に腐ってしまうので食卓に上る事はない。
 勿論料理すら出来ない代物だが、生のままでかじればクリーム松茸よりも美味だと言われている。
「先に食べて良いって言ったのトリコさんなのに、泣くほど我慢出来なかったのかな?」
 たった一本しか生えていなかったのを是非にとすすめてくれたのはトリコだったというのに。
「食べかけならまだ残ってるのに。探しに行って見つかれば良いですけど」
 もう日暮れだし早く帰ってきてもらいたい。こんなところで一人きりはやはり不安が大きかった。




 小松が野営の準備を整えていると、肩を落としたトリコが足取りも重く戻ってくる。
「あっ、おかえりなさい。どうでした? トリコさんも食べれました?」
 帰ってきたトリコに夕食を準備しながら小松が話し掛ければ、
「……ここんとこずっと据え膳、お預け状態だ」
 と、沈んだ声が帰ってきて……。
「食いしん坊のトリコさんが我慢なんてするからですよ」
 そう叱られて、『オレはいつも我慢しているっ』 と、叫びたい衝動をトリコは必死に抑えるのであった。





『……見つけた時は良い案だと思ってたが薮蛇だった』



勿論下心があってすすめたわけですが、視覚の暴力に勝てず、走り去った森の奥で一人で致したに違いない下心満載のトリコさんですが、あまりにもヘタレで一生小松をハントできなさそうです。






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