見てはいけない場面を見てしまったとはこの事だろう。ほんの少し時間がずれていれば見なかっただろう場面。
小松が見たのは、トリコとココがキスをしているところだった。
トリコとの待ち合わせの時間に、もう少し遅れていれば良かったのだろうが、律儀な小松は遅れたくないと道を急いだのだ。
その結果、まさか密かに恋慕うトリコが、ココとキスをするような仲だと知ってしまうとは思いもしなかった。
(そんな…、トリコさんとココさんが……?)
確かに自分よりも長い付き合いのココがトリコの恋人でも不思議ではない。トリコが優男と評したがココの美貌はミステリアスで魅力的だ。
コンビにはなれても恋人にはなれないのだと、突き付けられた現実は想像以上に小松の胸に痛みをもたらした。
所詮自分は出会って一年ちょっとの付き合いで、ハントに同行させてもらっている身だ。足手まといの何者でもない。
それに比べ、重い過去を持つであろうトリコとココが深い関係でない方がおかしい。
容姿端麗なココと自分を比べるのもおこがましくて小松は考えるのを止めた。
しかしまさかトリコが同性愛者だったとは思いもしなかった。
筋肉質な身体をセクシャルだと思う事もあったがトリコ自身の言動から少年くささが抜けきらず、性欲よりも食欲が上回っているのだと思いこんでいた。下品なネタはあっても小学生レベルであって、生々しさを感じさせなかったのもあろう。
トリコに心酔する小松にとって、トリコが男色家だと知り得たのは良かった事なのか悪かった事なのか判断がつきかねる。
いつかトリコが女性と付き合って結婚するというお決まりの展開を、小松は友人という立場で見守っていくとばかり思っていたのだ。
(もしかしてボクにもチャンスが回ってくるかもしれない……)
諦めるつもりであったのに、ほんの少しの可能性が小松を唆す。
何故なら美食屋と料理人という自分達のような仕事上のパートナーが恋人になるというのはよくある話だったからだ。
トリコとパートナーになれただけでも予想外であるのに、自分の恋が実るなど、厚かましいのかもしれない。
しかし小松とて同性愛者ではない。トリコだからこそ、その強さに惹かれ、尊敬し欲したのだ。
(ボクだって本当は男の人が好きとかじゃない。トリコさんだからだ)
「小松」
名前を呼ぶ声、その甘い響き。
思い出すだけで小松の心は歓喜に震えた。耳元で囁かれたなら、それだけで達してしまうに違いない。
一人寝の冷たい布団の中、小松の右手が自身を慰めるように上下に動く。弛む皮を押し下げ括れを小刻みに刺激すれば射精感がこみ上げてくる。
硬く充血した小松のぺニスが我慢出来ないとばかりに脈打つ。
トリコのサイズは自分の比にもならないだろうと小松は右手の中の自身を慰める。どんなセックスをするのだろうか。荒々しいのかそれとも意外にも優しいのか。
あの大きな手で身体中をまさぐられみたい。小松と名を呼ばれ、夢中になる程に愛されてみたい。この浅ましく動く手がトリコの手だったなら……。
左手の指で己の広げた脚の付け根、奥まった場所を探る。男同士のセックスはここを使うらしい。
出来るのかとまず疑問が浮かぶ。快楽が得られるとも思えないが、トリコを受け入れるためなら多少の痛みは覚悟すべきだろう。
小さな穴は自分の指でも入らなくて改善の余地があった。
だから小松はもしもの時を考えて、特大のサイズのモノを通信販売で買った。いわゆる男根の形をしたもので、意外にもかなりリアルに造り込まれていた。
これで慣らしておけば、いざという時に役立つに違いない。慣らすのに時間がかかってトリコを困らせるような事はしたくなかった。
いや、それは明らかに大義名分だった。
トリコに求められる日が来るはずなど無いのだ。トリコにはココという恋人がいる。
だから単に自分自身の欲望を満足させる自慰のおもちゃとして買ったのだ。
手にした瞬間は羞恥と情けなさでいっぱいだったが、状況が違えば感覚も変わる。ソレを見て興奮してしまう自分を恥ずかしいと小松は思わなかった。
特大サイズとあって、小松のモノよりも大きい。シリコンで出来ているのだろうが、赤黒く作られていたソレは握った感触まで酷似させて作っている。
温感ジェルを付けて上下に擦ってみれば本物のようですらあり、小松は奥まった窪みにその先端をあてがって押し込む。
『ほらよ、小松。オレのが欲しかったんだろ?』
ゆっくりと先端だけが埋まる。
『小松の恥ずかしい穴がひくついてるぜ。もっと奥までくださいって言ってみな』
「ト・トリコさんっ、」
トリコに求められる事を想像して小松は達していた。自分の精液をソレに塗れば卑猥な光景に小松の興奮は増す。
夜な夜な小松はソレで自身の身体を開発していった。
堅く閉じた蕾はいつしか恥じらいを忘れ、淫媚なまでに柔らかく溶けて、飲み込む事を覚えていったのだった。
自慰によって開発された小松の身体。そして、信じられないことにある日のハントで小松はトリコと関係を持ってしまったのだ。
「小松、お前の身体サイコーだわ。なぁオレのセフレになれよ」
思わず耳を疑ってしまったのは、トリコにはココという恋人がいるからだ。優しいココを泣かせるなんて出来はしないと小松は首を横に振る。
ふと見ればトリコの表情が固まっていて……。
以上、『儚い初恋』の抜粋です。
トリ←コマな擦れ違い系ハッピーエンド。
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