ボクの恋人は年上だ。おまけに妖怪であり、性別に至ってはボクと同じ。
5年ぶりに再会したボク達は昔の話に夢中になり意気投合し、気が付けば恋人同士になっていた。
けれども、その恋人の鴆くんとは数えるぐらいしか会えなくて。会えたとしてもボクが病気だったり、幹部全員が集まっていたり。
だからか、ボク達はまだ本当の恋人同士って訳じゃない。つまり清い関係ってやつだ。
「これって、」
学校から帰れば、床の間に何やらお酒や菓子おりが積まれていて。出所を尋ねれば、
「あぁ、改築祝の御返しですよ」
鴆屋敷が出来上がった祝い返しですと、首無が口にする。
「そう…、もう出来上がってたんだ」
あれからもう3ヶ月も経過しているのだから、妥当なところだろう。
それを皆は知っているのに、ボクは何も知らなくて。鴆くんからもボクには一言も無い。
きっと総大将であるおじいちゃんにはきちんと挨拶があったんだろう。
「遊びに行ったって良いよね?」
力仕事には本家からは何人もの妖怪を出したのだ。若頭であるボクを招待する義理はあるだろう。
「若! 用があれば呼びつけるのが筋ですぞ」
横から鴉天狗が小さな身体で飛び去りざまに言い残していく。
解っているさ。
でも、ただ会いたいだけじゃなくって、ボクは鴆くんに逢いたいんだ。例えどんな理由を付けてでも。
「良いよ、一人で行くから」
隣接する県だ。電車で行くのは簡単だがいまいち自信はない。それでも…。
「護衛を付けて行くか、朧車で行くかですぞ」
何やら忙しそうな鴉天狗はボクの言葉を聞き流したようだったが、決して一人にさせるつもりは無さそうだった。
どうやらボク達の関係に気付いているらしい。
しかし、ぬらりひょんの力をもってすればこっそり屋敷を抜け出すなど雑作もない。
そしてボクは電車を乗り継ぎ、辛うじて鴆くんの屋敷にと辿り着く。
「改築祝の宴もあったんだってね」
一通りの騒ぎの後、内へと通されて、鴆くんより上座に座らされる。
護衛もなく来た事に鴆くんの機嫌は良くないが、ボクの機嫌も同じくらいに悪かった。
「内々にだ」
苦労を労うための宴席であれば、目上の者を招待など出来ぬとの主張に水くさいと思う。
「青や黒も呼ばれたのに」
「アンタはオレの主だ。挨拶に伺ってこそ、簡単に呼べやしねーよ」
解る。筋を通せば鴆くんが正しい。
だけど、ボクは。ボク達は……。
「鴆くんの、馬鹿…」
もしかして恋人と思っていたのはボクだけ?
その位置付けを拒まないのはボクの言葉だから?
だったら初めから優しくなんてしてほしくなかった。
情けない事にツンと鼻が痛む。涙が出そうだった。
俯いてしまったボクに鴆くんはガシガシと頭を掻いて天井を見上げる。
「あー、誤解してそうだから言うけどよ」
珍しく言い淀む鴆くんにボクは顔を上げる。
「ここに呼んじまうと、アンタを監禁して帰したくなくなるからだよ」
それに下心が丸見えで無粋すぎらぁ。
そう言って、鴆くんが背を向けたのはもしかして照れ隠し?
口数少ない恋人の精一杯であろう告白に、一方通行でない事を確認出来たボクが「今夜は帰らないから、ボクを鴆くんのものにして」と口にしようとした瞬間、庭先に賑やかな車輪の音がしたのである。
「若ー! リクオ様ー!」
鴉天狗の声にやはり追ってこられたと知ってボクは舌打ちする。今夜こそ本当の恋人同士になるつもりだったのに。
慌てて迎えにきた鴉天狗に異議を唱える間もなく朧車に乗せられ、ボクは渋々と屋敷に帰ったのだった。
鴆くんの屋敷にクイーンサイズのベッドを備えた洋室があるのをまだボクは知らない。
何気に両想いが書きたかったのです。奥手な鴆くんと積極的な昼若。昼若に迫られて「滅相もねぇ」なんて辞退して昼若の機嫌を損ねるとか。ヘタレな攻めが好きです。
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