「これがホントの桜吹雪ってやつだねぇ」
リクオが感嘆し、同じく縁側に腰掛けている鴆に同意を求める。
春独特の風が桜の枝を揺らせば薄く色付いた花弁が舞い落ちる。まるで舞うかのようなその光景は幻想的で。
それを恋人と二人のんびりと眺めるのはとても風情があった。
「桜ってさ、いいよね」
どうしてこんなにも心惹かれるのか解らないけれど、誰もがその花を愛でる。それは人間も妖怪も変わらない。
今夜も奴良組では花見酒として連夜の大騒ぎだ。
「花の盛りは短いけどな」
鴆もその枝を眺めては目を細める。
どうした事か先ほどまで奴良組の酒盛りにつき合っていた夜の自分は出てこなくて、ちょっと残念に思いつつもリクオは恋人である鴆に酌をする。
流石にこの姿では飲むわけにはいくまい。
「桜の花を楽しめるのは短いかもしれないけど、でも散り際は潔くって好きだな」
「あぁ、そうだな」
リクオの言葉に鴆が同意して、互いに視線を絡ませる。
こうして二人きりになるのをどれほど待ちわびていたか。鴆と五年ぶりの再会をして一年。色々と紆余曲折はあったが恋人として結ばれた今が一番幸せな時ではないだろうか。
しかし二人の時間がなかなか取れなくて焦れったい思いは共通で。
「リクオ……」
鴆の手が酌をしようとしていたリクオの手を握り、徳利を傍らに置かせると、リクオの両手をその手で包み込む。
「鴆、く……ん」
おそらくここから引き寄せられて、抱きしめられるに違いないとリクオの頬が染まる。
真摯な鴆の眼差し。
こんなところでは誰に見つかるか解らないから奥の部屋に行こうというべきなのに言葉が出てこない。
(キスぐらいなら……いいよね)
今夜は人払いをしてこのまま朝まで過ごそうと甘い気持ちに浸るリクオに鴆は、
「リクオ、オレも桜みたいに潔く散ってみせるぜっ」
と、台無しな台詞を口にしたのである。
とことん空気の読めない恋人にリクオの怒りも爆発する。
「バッカじゃないっ!!! 散ってどうすんのさっっ」
散るとはつまりそういう事だ。
可愛い恋人を残して逝くとはどういう神経だと、あまりの怒りにリクオの姿が変わる。そして懐から祢々切丸を取り出し鴆の首へと近づけた。
「鴆、オレより先に死んだら殺す」
無粋な発言にすっかり酔いが冷めてしまったではないかとリクオは怒りを鴆にぶつける。
せっかくいい感じに酔っぱらって、たまには昼の自分で情を交わすのも良いかもしれないと大人しくしていたのに。バカ鴆のせいで台無しだと憤慨すれば鴆が苦笑する。
「いやぁ、アンタも結構可愛いとこあるよなぁ」
「っ!!」
すっかり鼻の下を伸ばしている鴆に一連の自分の行動に恥ずかしくなる。なんと自分はこの男に夢中なのだろうか……。
にやにやと笑う男はすべてお見通しのようで、居たたまれなくなった夜のリクオは姿を隠す。
「……もう、鴆くんのバカ」
短い髪では表情は隠しきれないが相当赤くなっているに違いない。
「心配しなくても、リクオより先にイくつもりはねぇよ」
それが何を意味するか。……またしてもドン引きである。
「鴆くん、今夜は早く帰っていいからね。なんなら朧車呼ぼうか?」
にっこりと、つまりは早く帰れとのリクオの言葉にもはや動じる鴆ではなかった。
「まぁもうちょっと飲ませてくれてもいいだろ?」
お猪口を手にすればリクオも仕方ないと隣に座る。桜の花が散る中、こんな光景をあと何年一緒に見られるだろうかと互いに口にすることはなく、ただ桜の散る様を見つめるのであった。
そして、
「鴆が短命だって誰が言ったんだろうねぇ」
いつまでも傍らに居続ける男にリクオはもう苦笑するしかなかったのである。
何年後かはご想像に☆
死にネタは嫌いなので、鴆くんには長生きしてもらいます(笑)
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