かわいい恋人



 ほんの少し前から可愛い恋人であるリクオがその大きな瞳を潤ませている。
 どうやらあの話を聞いてしまったらしい。
「ひどいよ、用がなくなったらお払い箱だなんてさ」
 まぁ確かに用はなくなったが。お払い箱とまでは言ってはいない。
 そんなリクオの、可愛い恋人の小さな我が儘を鴆は愛しく思う。
「ボクが唯一絶対とか言ってたのにっ」
 いや、それはそうだが。それとこれは話が違う。
「ひどいっ!ボクの事弄んだんだ」
 さめざめと泣くリクオ。いや、泣くふりかもしれない。
 なぁリクオ、弄んだってそりゃ誤解だし語弊もあるぞ。
「あのよ、お前が俺の主には違いねぇし」
 泣かれるのは苦手だ。目の前のリクオを何と慰めようか考えても良い言葉が浮かんではこない。おまけに今掛けた言葉もリクオの満足する言葉ではなかったらしい。
「ボクを主って言いながらボクから離れていくなんて信じられない!」
 いや、屋敷が出来上がったんだから自分の屋敷に帰るべきだろうが?それがなんで別れ話のようになってるんだ?
 それにしても眼鏡をしていないリクオの愛らしさは犯罪の域だ。大きな眼は綺麗なアーモンドの形をとり、縁取られた睫毛は余計にリクオの目の大きさを象徴している。
 ましてやもうすぐ夜になれば夜のリクオが顔を出すだろう。あれが色仕掛けでくるとなると、その我が儘がどれだけ理不尽だろうと叶えてしまいたくなるのだ。
「あーもうっ解った!リクオが三代目継ぐまで本家に世話んなる」
 どうせ折れる結果になるなら今でも同じだ。
 本家で世話になると言えばリクオは満面の笑みを見せる。
「鴆、くん」
 潤んだ瞳。これに勝てるヤツがいるなら名乗りあげてもらいたい。
「その代わり、解ってんな!リクオ」
「解ってるよ、もう鴆くんってばエッチなんだから」
 そう言って頬を染めたリクオが自身の着物の帯をほどこうとするではないか。
「ちがっ、バカ!早く着ろ!」
 そう言うことじゃないの?と小悪魔なリクオの笑み。あー完敗だ。
「俺が言いたいのは立派な跡目になれって事だ」
「解ってるよ鴆くん、きっと晴れの姿を見せたげるからね」
 解ってるなら大人をからかうなと鴆が言う前にリクオに詰め寄られる。
「それはそれとして。ね、今夜はしないの?」
 きっちり着込んだ襟元すら欲情を誘うなんて。

 ホントお前には完敗だ。






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