グラスの中の氷とカルピス




 体調に不安の残るリクオに薬を届けにきた鴆は、障子を開けようとした手を止めて部屋の前で立ち止まる。聞こえてくる一方的な話し声。
 どうやら電話中のところに出くわしたらしい。これはマナー違反というものだと妖怪である鴆も知っている。
 また出直そうと踵を返したが耳に入ったものは仕方がない。
「清継くんちで誰もいなくてさ」
 最近よく聞く名前だ。リクオとその人間はかなり懇意にしているらしい。
 屋敷に行くのは良いが、いくら学友っても男と二人きりってのは感心しねぇと鴆は眉を寄せる。
「清継くんが、うんそうそう。なんだって出来るって。もう大人だからなんて言うんだ」
 確かに身体は大人だ。昔の人間も成人扱いをされていたし、妖怪ならなおさら立派な大人である。
「それでね。誰もいないからって清継くんに出されたのは良いけどものすごく濃いんだもん。清継くんってば無理矢理飲ませてくるし、すごくドロッてしててさ」
 ちょっと待て!ナニを出されたと?
「噎せちゃうったら」
 無理矢理飲まされた、濃くってどろりとした、飲めば噎せるモノ。
 心当たりに鴆は腹の底から怒りがわいてくる。
 まさか、リクオが…。今まで恋人である自分のものは飲むどころか舐めもしなかったリクオが、である。他の男のは口にして俺のは拒絶するとはどういう了見だ? あまつさえ飲んでみせたと? 鴆の内で抑えきれない怒りが爆発しそうだった。


『もう!清継くんってば口に出すなら早く抜いてくれないと飲んじゃったじゃないか!』
『どうだい奴良くん、さぁ最後の一滴まで飲みたまえ』
『ゃ、清継くんのっておっきいから顎が痛いんだもん』
『ふははは、さぁ次は下のお口に舐めてもらおうか』


 つまりはそう言う事なのだろう。
 なんて破廉恥な事を!
 これは仕置きが必要だ。お前の男は俺だけだと身体にも教えねばなるまい。
 それに是非とも俺のも飲んでもらわねば気がおさまらないと鴆が拳を握る。

 いやその前に清継という人間だ。
 リクオを弄ぶ輩はこの毒羽で、苦しませた挙げ句に葬ってやる。

 鴆が復讐の炎を燃え上がらせている一方で、クラスメイトの島と電話で談笑するリクオは、

「清継くんにはカルピスウォーターで十分だよ、あんな原液勘弁してもらいたいよねぇ」

 そう、話を締めくくる。

 ここで可哀想なのはカルピスという存在を知らない鴆に復讐を誓われた清継その人であろう。
 その後、清継の屋敷で空き巣騒ぎがあったとかなかったとか・・・・・・









おそまつさまでした〜

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