目を覚ました牛頭丸に薬を飲ませ、療養に専念するよう説得したのはほんの半刻前の事。
漸く落ち着いた牛頭丸に鴆は良い機会だと口を開く。
「じっくり話し合う機会もなかったが」
あの傷をつけたのはおめぇだってな? と脅すかのごとく鴆は牛頭丸を睨む。
捩眼山での事を鴉天狗の息子達に聞き、鴆は怒りに震えたものだ。
「わりぃなんて思っちゃいねーよ、第一にリクオからはおとがめなしと言い渡されてるんだろ?」
布団から身体を起した牛頭丸は鴆の態度を恐れる様子は無く、むしろ不遜ですらあるが、鴆もまた気になどはしない。
「リクオの判断に意見はしねぇよ」
どんなに憤っても、当人がなんとも思っていないのだからでしゃばる訳にもいかないのだ。
「だがなぁ、オレの腹が収まらねぇんだよ」
あの傷をきれいさっぱり治すのは骨が折れたぜと、鴆の愚痴だが牛頭丸には関係のない事だとばかりに鼻で笑う。
「そりゃご苦労なこって。しかし、男が傷跡気にしちゃいられねーだろ」
現に己の身体など無数の刀傷があり、むしろそれは勲章だと思っている牛頭丸にしてみれば何を腑抜けた事を言っているんだ?となるのも無理は無い。
しかし鴆はそんな牛頭丸を一喝してみせたのだ。
「馬鹿野郎、リクオは万の妖怪を束ねる男だぞ。そいつが刀傷なんぞありゃあ価値が下がるってんだよ」
誰の手にもかかった事がないぐらいに強い存在だと誇示出来なければならない。
それが例え欺瞞であっても・・・。少しはリクオに箔がつくってもんだ。
こうして後ろを守るだけの身ならば、出来得る事の全てをしてやりたいと鴆は思う。唯一の存在としてリクオを輝かせるために・・・。
あとはやはり、傷一つないリクオの裸体が好きだという己の拘りについては誰にも言うまいと鴆はまだ明けきらぬ空を見つめるのであった。
建前1、本音9・・・だったり・・・
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