玉章との四国勢との戦いがすんで・・・
やっと傷の癒えた牛頭丸にボクは一番聞きたかった事を尋ねていた。
「あのさ、鴆くんと、何もなかったよね」
あの夜、牛頭丸と鴆くんが二人きりだったと聞いたのだ。珍しく鴆くんが語調を荒げ、自分一人で看ると主張したらしい。
その迫力に圧され牛鬼組の側近連中も渋々と引いたという。二人きりにならねばならない理由があったのか、気になって仕方がなくて聞かずにはいられなかったのだ。
「あぁまぁ、何も無かったと言っちゃあ嘘んなるか?」
牛頭丸の言葉にやっぱりと肩を落とす。
鴆くんは、ボクなんかよりも牛頭丸みたいなのがタイプだったんだ・・・。
だってボクには指一本触れようとしないから、薄々とおかしいとは感じてた。
恋人同士なのに、キスも無くて『リクオが大人になったらな』なんていつもはぐらかされて。
それってやっぱり方便ってやつだったらしい。
鴆くんが牛頭丸を一人で看病した理由。それは牛頭丸が好きだという事。
二人きりの夜。病人相手だと言い聞かせてみても、牛頭丸の今の言葉で何かあったのだと知れた。なかなか二人きりになれないだろうから貴重な時間だったに違いない。
ひどいよ…。ねぇ、鴆くん、鴆くんの中の恋人の定義って何? それともボクはやっぱり形だけなの?
若頭の恋人ってだけで奴良組での地位は安泰だから?
鴆くんに限ってそんな事ないと思いつつ疑惑は消えない。
「そう、お幸せにね・・・」
なんとかそれだけは言葉にしてボクはその場を立ち去る。
「なんだリクオのヤツ。鴆と言い争っただけで『お幸せ』ってなんだってんだよ」
羽の入った薬酒を毒と勘違いしてやりあったが、それがどうして幸せに繋がるのか理解できないと首を傾げるがその心中など解るはずもなく……。
そしてボクは肝心の鴆くんの前に座って鴆くんを問い詰めていた。
「牛頭丸に何をしたの?」
「あいつ余計な事言いやがったな!?」
余計な事って、やっぱり口止めしてたんだ・・・。
「些細なことだから心配ないってんだ」
病人相手に怒鳴り付け、余りにも暴れるから無理矢理薬で眠らせた事を恨んでいるかもしれないが、リクオに話す事ではないと鴆は話を打ちきる。
そんな鴆くんの態度にボクは不安から感情を抑えられなくなっていた。
「なんだよっ! 牛頭丸には手を出して、どうしてボクには何もしないんだよっ」
どうせボクなんかチビのガキだよっ!
牛頭丸は見た目以上の齢だけれど、自分はまだ13にもなっていない子供だから鴆くんが相手にしないのも当たり前なんだ。
そんなボクに鴆くんは珍しく優しい笑みを浮かべていた。
「ははぁん、解ったぜリクオ。何を誤解してっか知らねぇがよ、オレが惚れてんのはお前ぇだけだ」
誤解すんなよと添えた言葉に、納得出来るはずもなく、ボクは鴆くんを睨みつけていた。
「誤解? じゃあ証拠見せてよ!」
「証拠、ねぇ」
ぐいっと顎を持ち上げられる。
そして…。
舌と舌が絡み合う濃厚なキスがボクのファーストキスとなった瞬間だった。
身体中から力が抜けていく。
「なぁリクオ、オレだって我慢してんだ。13になったら覚えとけよ。こんな接吻じゃ許してやんねーんだかんな」
鴆くんの欲望を秘めた視線に、ボクはコクコクと頷く。
こんなキス一つで黙らせるなんて……。やっぱり鴆くんはひどいよ。
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